ショップ目的ではなく、「PARCOへ行こう」へ。ファンとともに育てる、パルコの顧客戦略【後編】

株式会社パルコ 店舗事業本部 顧客政策部部長の安藤彩子氏と、スマイルエックス合同会社CEOの大西理氏が、顧客戦略とCRMについて語り合う対談。

CRMの原点と「言語化」を伺った前編に続き、後編では、2027年春リニューアル予定の「PARCOメンバーズ」の構想やパルコが顧客基盤を持つ意味について深掘りします。

前編「CRMの黎明期から20年で変わった「時間軸」と、社内をつなぐ「言語化」ファンとともに育てる、パルコの顧客戦略」はこちら

2027年春、「PARCOメンバーズ」をリニューアル

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購買者だけでなく、パルコに共感してくれる「ファン」を増やしたい

大西:前編の終盤では、2027年春の「PARCOメンバーズ」リニューアルが大きな挑戦だとおっしゃっていました。その構想はどのように始まったのでしょうか。

安藤:2024年頃に半年間、経営陣と意見交換をする機会がありました。そのなかで、自分たちの考えや、行うべきことが研ぎ澄まされたと思っています。

最初の問いは「PARCOに顧客はいるのか」でした。私はすぐに答えられず、宿題として持ち帰りました。そして出した答えが、「PARCOにいるのは『ファン』」というものでした。

大西:顧客ではなく、ファンだと。

安藤:購買者とファンという2つの軸があると考えたのです。地域に根付いたPARCOには毎日のように来てくださる方もいて、購買者も大事なお客さまです。ただ、購買者を増やすだけが仕事ではない、という思いがかなり強くありました。

ここで言う「ファン」は、熱狂的なコアファンのことではありません。PARCOに何らかのアンテナが立っている人、共感してくださる人、コラボレーションしようと言ってくださる方も含めてファンと呼んでいます。

つまり、「PARCOを好きな人を増やしたい」という、すごくシンプルなところに行き着いたのです。PARCOは商業施設の枠を超えていきたいですし、そのためにも共感度が高いほど喜んでいただけるサービスを用意したいと思っています。

プラットフォームから一歩踏み出し、パルコ自身のブランド価値を届ける

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大西:PARCOは、自社商品を直接売る小売店とは違い、商業施設ならではの難しさもありそうです。

安藤:おっしゃる通り、商業施設は「箱」になりがちです。施設にしてもWebサイトにしても、プラットフォームは用意するものの、実際のコンテンツをつくるのはテナントの皆さんです。出店ブランドはそれぞれお客さまとのつながりをつくっていて、お客さまは、お気に入りのブランドを目的に来館されます。でもそこから一歩進んで、PARCOそのものが目的になっていただけたら、と思っています。

今は、パルコというブランドとしてどんな文化的価値を届けるのか、という意識が強くなっています。独自のコンテンツを提供し、プラットフォーマーではなく、パルコとしてお客さまとつながる。それを叶えたいと思っています。

展覧会と会員施策を掛け合わせ、過ごした時間を思い出にする動線設計

大西:立地だけの勝負や場所貸しではなく、「PARCOへ行こう」と思ってもらうわけですね。施策はどのように考えているのでしょうか。

安藤:いろいろな部門との連携を大切にしています。例えば私たち顧客政策部と並んで宣伝部があり、広告や展覧会などを手がけています。館内で展開されること自体がPARCOならではですし、展覧会もPARCOらしさのあるコンテンツです。

お友達と展覧会に行って、その後館内でお茶を飲む。そんな風に、過ごした時間全体が思い出になるような導線は、PARCOだからこそつくれると考えています。

大西: 顧客理解が進めば、「こういうものを買うお客さまなら、このギャラリーを観てくれるのではないか」という設計もできますね。館内そのものの魅力を再設計することは大事だと思います。

不確実な時代だからこそ問い直す、顧客基盤の意義

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CRMをやめる選択肢もあった

大西:これらの施策を、2027年春のリニューアルというタイミングに合わせたのは、どういう経緯だったのでしょうか。

安藤:直接のきっかけは、アプリの老朽化です。ただ、アプリだけではなく、CRMの土台となる利用データが取得しづらい構造的な課題もありました。

PARCOは商業施設です。利用データは、自社のクレジットカードやアプリの決済機能を利用していただかないと取得できません。ところが、お客さまが現在利用している決済手段に加えて、新たに商業施設のカードを持っていただくのは容易ではありません。アプリの決済機能も、不正利用を防ぐために、登録のハードルを下げることが難しい状況です。

その結果、利用データを取得できるお客さまの範囲はなかなか広がりませんでした。取得できる利用データが限られると、施策を届けられる相手も限られますから、そうした一部のお客さまに向けてキャンペーンを実施しても、館全体の売上から見れば効果はわずかです。その場合、現場は「やっても意味がない」と感じてしまうでしょう。

しかもパルコは宣伝広告が強く、集客力もあります。それならCRMなどやらなくていいのではないか。そう言われれば、私自身もそうだなと思いました。やめるという選択肢も、確かにあったのです。

顧客との強いつながりが事業を支えてくれる

大西:それでも続ける判断をされたのは、なぜですか。

安藤:何が起こるかわからない、不確実な時代だからです。外部環境が大きく変わっても、お客さまとのつながりが強い施設は、しっかり踏みとどまれます。顧客基盤は、いざというときに事業を支えてくれるものだと考えています。

もう一つは、グループとしての将来です。顧客基盤がもたらす相乗効果は、いますぐではなく、これから発揮されていくものです。ここで手放してしまえば、その可能性ごと失うことになります。だからこそ、今は基盤を手放すのではなく、もっと大きなものに育てられるよう、仕組み自体を変えていくべきだと判断しました。

強固な顧客基盤と仕組みづくりにより、店舗の顧客担当たちには、毎日新規の登録促進を頑張る状態から、パルコの価値を届ける仕事へと、少しでも早くシフトしてもらいたいと思っています。

オムニチャネルやCRMの落とし穴

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オムニチャネルの目的は「クロスユースを増やすこと」ではない

大西:企業がオムニチャネルやCRMを進めるとき、どこでつまずきやすいと感じますか。

安藤:「何のために」「どういう成果を得たいのか」がいつの間にかずれてしまうことがあると思います。だからこそ、「本当に叶えたいことは何だったのか」を見失わないことが必要です。

例を挙げると、ECとリアル店舗のIDを統合する場合、「両チャネルとも使う人が何人増えたのか」という、クロスユース前提の見方になりがちです。でも本来は、クロスユースのユーザーをつくるために統合したのではなく、購買プロセスを滑らかにして、お客さまがつまずかないようにするためのはず。結果的に「どちらも使えて便利だ」と感じてもらうことが大事だと思うのです。

大西:行きたい人は店舗に行けばいいし、すぐに買いたいときにはECを使えばいい。お客さま一人ひとりがスムーズにアクセスできるようになることが本来の目的ですよね。利用率を上げること自体が目的になると、店舗スタッフが「ECでも買ってください」とメールを出すような、おかしなことが起き始めますから。

顧客基盤を健康診断のように可視化する

大西:ID統合の成果はどのように見ているのでしょうか。

安藤:重要視しているのは、EC利用者が増えたかどうかではなく、あくまでIDを持ってご利用くださる方が増えていくかどうかです。統合により顧客接点が広がったことで、店頭では触れることのなかったアイテムにWEB上で出会え、リアル×WEBになることでお客様が体験できることは増えていきます。そのようなお客さまの行動変化こそが、IDを統合した成果だと考えています。

その上で、顧客基盤が健全に機能し、利益につながっているかについては、私自身「健康診断」と呼んでいる指標を見ています。既存顧客と新規顧客の割合や顧客維持率、稼働日数などです。ただ、それらの数値が良いことと利益効率が上がることは、一見つながっているようでいて、必ずしもそうではありません。新しいツールを導入して、売上は上がったけれど利益は下がっていた、という起こりがちな問題を防ぐには、損益計算書をしっかり見ていく必要があります。

今でも「仕事が楽しい」理由

原点に立ち返り、ブレない姿勢で顧客に寄り添う

大西:最後に、ECやデジタルマーケティングの現場で顧客と向き合っている読者へ、メッセージをお願いします。

安藤:私はキャリアの初期で仕事につまずき、一度、社会から離脱もしています。それでも、何か自分にできることをやっていこうと志して、マーケティングに取り組んできました。数十年経って感じるのは、続けていくとそれが自分のキャリアになるのだということです。

今でも仕事が楽しいと思うのは、やはり、「マーケティングを手掛けたい」と思った強い原体験があるからです。うまくいかないときには20年前の志に立ち返ることで、また前向きに仕事に戻ることができています。

マーケターとして心がけていることとしては、妄想でもいいので徹底的にお客さまの感情に寄り添うことです。皆さんにも、お客さまと向き合い、気持ちを想像することを忘れないでほしいと思います。

大西:CRM業務を担当する人が増えたからこそ、作業にしてはいけないのでしょうね。安藤さんは、ずっと顧客のほうを向いている。そのブレない姿勢が成果を生んでいくのだと感じます。

インタビュイー紹介

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株式会社パルコ

店舗事業本部 顧客政策部 部長
日本オムニチャネル協会フェロー
安藤 彩子さん

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スマイルエックス合同会社CEO

日本オムニチャネル協会フェロー
大西 理さん

前編「CRMの黎明期から20年で変わった「時間軸」と、社内をつなぐ「言語化」ファンとともに育てる、パルコの顧客戦略」はこちら