ボランタリーチェーンやコミュニティサイトとも連携し、CX 向上を図る!
ネットとリアルの会員 ID 統合の意図と OMO 戦略【後編】

長い歴史を持ちながら、変化や変革を柔軟に受け入れるカルチャーを持つ西川株式会社。マーケティングにおいても、時代に応じた取り組みを実施されています。
前編「変化を続ける西川のマーケティングとデータ活用の秘訣とは? ネットとリアルの会員 ID 統合の意図と OMO 戦略」では、会員 ID 統合の経緯、データの活用法などを同社イノベーションマーケティング戦略事業部マーケティング戦略部の佐藤氏に伺いました。後編では、OMO 戦略を中心に、コミュニティ施策「みんなの眠ラボ」の背景、マーケターとして心がけていることなどについて語っていただきました。

様々な角度から OMO に取り組む西川

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ID 統合によって店舗業務を補完することが可能に

――西川様が CRM 施策において注力されていることは何でしょうか。

佐藤功之介氏(以下、佐藤):2023 年の会員 ID 統合前までは、店舗で購入されたお客様に対し、各店舗の担当者ベースでおはがきを送るといった形でコミュニケーションを取っていました。
ただ、担当者ベースの施策なので、送っている店舗と送っていない店舗があります。そういった店舗ごとのギャップを、ID 統合することで埋められると考えました。
具体的には、店舗で購入されたお客様に対してもメールを送ることで、忙しくて現場以外でのお客様とのコミュニケーション機会をつくれない店舗の業務を補完することができるのではないかと考えています。そうすることで、より接客に集中できる環境を作ることになると思います。EC で購入された方向けには、「西川チェーン」という専門店によるクリーニングやリフォームといったメンテナンスをご案内しています。「西川チェーン」は、業界初のボランタリーチェーンとして、寝具の相談、オーダーメイド枕の作成、最新寝具体験などができる場です。
これは ID 統合前から EC 購入者向けに先駆けて行ってきた施策です。ID 統合をした現在は、直営店のお客様向けにもそういった取り組みを考えていかないといけないと思っています。

コミュニティ施策が商品開発にも発展

――OMO に近い取り組みをされてきたのですね。貴社が運営するコミュニティサイト「みんなの眠ラボ」も、CRM 施策の一環なのでしょうか。

佐藤:CDP を作るときに、「こんなに広告宣伝をしていて、購買するまではいろいろな施策が充実しているのに、購入した後はメンテナンスやリフォーム含め、店舗任せになっている」という
部分に強い課題感がありました。
それに加えて、CRM 施策を効果的に展開するためにはデータが要ります。精度の高いシナリオをつくるためには、西川の商品を選んでくださる方がどんな理由で選んでいるのか、どんなことに興味をお持ちなのかなどを、直接知る場が欲しいとも感じていました。これまでも今も N1 インタビューも行ってきたものの、直接話を聞くとなれば、どうしても関東圏の方に絞られますし、たくさんの方をアサインすることに工数もかかってしまっています。
これら 2 つの課題解決を図れる可能性があるものとして、コミュニティサイトが浮かんできたのです。オンライン上なので地理的なハードルは越えられますし、データも集めやすい。定量的なデータ収集と、定性的なお客様の声を集める、この 2 軸を大きな目標としてスタートしました。
コミュニティは ID 統合と同様、長く続けていくことで初めて効果が表れてくるものです。しかし、会社としてはやはり費用対効果といった話にもなってきます。そこで意識したのは、「いかに社内プレゼンスを上げてコミュニティの存在価値を感じてもらうか」。
そのためにまず、コアな西川ユーザーに会員になっていただき、そういう人たちの意見が聞けるというメリットを社内にアピールしました。それを続けていくと、だんだん認知が広まってきて。
「商品開発を眠ラボで一緒にできないか?」といった話が出てくるなど、徐々に変化してきました。

――(編集部)「眠ラボ」の利用者です。眠ラボでは、利用者の睡眠に関する悩みや質問に対して、同じ利用者の方が回答をされる場面があります。その画面をスクロールしていくと、「西川のこだわりの素材」というコラム記事が配置されていて、ついタップしてしまいました。そういったコミュニケーションや導線も、意識していらっしゃるのでしょうか。

佐藤:こだわるようにしています。そもそも日常生活で、寝具のことを話す機会ってなかなかないですよね。「その洋服、素敵だね」とはいっても、「このマットレス使っているんだ」という話にはならない。でも眠りのコミュニティがあれば、自然と話す機会ができるし、寝具に興味を持ってくれるきっかけ作りになりますよね。今のリアルなお話を聞くとなおさら、そういう場があることは重要だなと感じます。

マーケターとしての情報収集のコツ

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――佐藤さんはオンラインもオフラインも、時代に応じて様々な施策を実施されていますが、普段マーケティングに関してどのようにインプットされているのでしょうか。

佐藤:私自身はゼロから何かを生み出すことは苦手ですし、勘の鋭い人間ではないので、自分からいろいろなイベントや勉強会に参加するようにしています。
たとえば、コミュニティサイトを立ち上げる際には、「コミュニティサイトをやりたい」という気持ちはある一方で、それを形にする方法が全然わからなかったので、あるイベントでコミュニティ運営について発表されていた企業の方に、終了後に声をかけました。名刺交換をする中で「詳しくお話を聞かせてもらっていいですか」とお伺いを立てて、後日聞きに行きました。
お願いしてみると、意外と皆さん親切に教えてくださいますし、いろいろな方のお話を聞くことで、たとえ自社にそのまま取り入れられなくても、良い刺激になるのです。
EC サイトを立ち上げる際にも、経験者に話を聞く中で、「EC は運営が本当に大変だから、若手のバリバリ動けるメンバーは入れた方がいい」と言っていただいて。そういう部分は、ネットや本からはなかなか得られない知見ですし、実は肝になるところだと思います。現場の肌感がわかるようなことを教えていただけるので、聞きに行くというのはおすすめですね。

OMO で CX を高めることでお客様との信頼関係を構築

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お客様への価値提供を前提に施策を考える

――OMO 戦略において目標としている姿や、理想の状態についてお話しください。

佐藤:経営層からの発信でも、「nishikawaID」を中心にサービスを展開していこうと言っています。今はまだ使えるデータが購買履歴といったシンプルなものしかないのですが、今後は同意を得ながら眠りの情報や体調などを Web 上のアンケートやメールを使って収集し、データを踏まえて適切な情報やサービスをお知らせしていく仕組みを構築していきたいと思っています。それはオンラインもオフラインも関係ない取り組みですね。
弊社では創業から長く商売を続けていく中で、「信頼は、醸成するのは難しいけどすぐになくなってしまう。だからきちんとお客様に価値を提供していくことが重要だ」というマインドが形成されています。
ID 統合にしてもコミュニティにしても、CX を高める取り組みは短期的な売上にはつながりにくい傾向にあります。ただそれをあとから振り返ったときに「結果的にこの取り組みが、新しいお客様との接点になったし、西川に対する信頼感につながっていたんだ」と感じられるものにしたいと私は考えています。

各販売チャネルで補完関係を築く

――各販売チャネルのバランスは考えられていますか。

佐藤:ID 統合して間もないので、データ収集・分析はまだまだ途上ですが、少しずつ気づきが出てきています。たとえば、初回購入したチャネルによって 2 回目に購入するチャネルが違う傾向がみられています。
ただ、店舗だとスペースの限界もありラインナップをそろえきることは難しいですよね。また、クイーンサイズ、キングサイズといった大きなサイズは、そこまで回転するものではないので、店舗には置けなかったりします。そういったところを EC で取り扱う形で、オフラインとオンラインの補完関係をつくるのです。今は EC か店舗どちらかに注力するというわけではなく、お客様がその時に応じた便利な方法を選べるよう両方必要なのだろうと感じています。

――最後に、今後の目標をお聞かせください。

佐藤:まずは、OMO をもっと展開できるように、範囲を広げていきたいです。オンラインでもオフラインでも、コミュニティサイトでも店頭の接客でも、それぞれのいい点を組み合わせた顧客体験を創り上げたい。そのために自部署だけでできることは少ないので、部門を横断して連携し、一緒にどうあるべきか考えていきたいと思います。

インタビュイー紹介

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西川株式会社

イノベーションマーケティング戦略事業部
マーケティング戦略部 広告・広報担当課長
佐藤功之介さん

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