スタッフ AI と自社 EC が創る、新しいアパレルの売り方
パルの OMO 戦略を支える「PASSION と LOVE」【後編】

先進的なマーケティングの取り組みを続ける株式会社パル。前編「店舗スタッフが個人 SNS で集客し、給与にも還元 パルの OMO 戦略を支える『PASSION と LOVE』」では、専務執行役員・プロモーション推進部長の堀田覚氏から、会社の強みを活かした OMO 戦略、スタッフによる SNS 施策について伺いました。後編では、AI スタートアップとの協業で実証実験を行ったスタッフDX「ファッションメイト」、自社 EC「PAL CLOSET」躍進の理由や今後の展望について語っていただきます。

スタッフとの自然な会話を AI で再現「ファッションメイト」

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「体温をもった AI」をいかに楽しんでもらうか

――なぜ AI 施策「ファッションメイト」を実施しようと考えられたのでしょうか。

堀田覚氏(以下、堀田):AI などの先端技術を手掛けるスタートアップ企業との協業で始まった企画です。販売スタッフには、その人の佇まいやキャラクターがあるからこそ、人間としての会話が生まれ売上につながる接客になります。であるならば、スタッフが元々持っているリソースをエンハンスするイメージで AI を作ってみてはどうかと思いつきました。
そこでインフルエンサースタッフの Instagram データを AI に学習させ、「商品に関して何でも答えますので聞いてください」という入口を作ったのです。スタッフとの自然な会話を再現しておすすめなどを伝えることができたら、そのスタッフのフォロワーが面白がってくれるのではないかという発想です。
チャットボットなどの単なる Q&A ではなく、あくまで軸は「個に対する接客」。売上よりも、会話を通してお客様がコミュニケーションを楽しんでくれるかどうかを重視して設計し、EC サイト「PAL CLOSET」で行った「パルクロウィーク」の企画として「ファッションメイト」を実施しました。
接客には、お客様が購入商品をある程度決めている場合と、お客様のイマジネーションを膨らませて購買に誘う場合があります。「ファッションメイト」ができるのは後者の接客。元々、インフルエンサースタッフというキャラの立った存在がいて、お客様が「このスタッフに聞いたら何と答えてくれるのかな」と興味をもっているからこそ、実現した企画です。

「AI だからこそ質問しやすい」スタッフにもお客様にもメリットがあった

――社内外の反響や手ごたえはいかがでしょうか。

堀田:インフルエンサースタッフ自身が AI の受け答えを見て「すごい、私みたい」と驚いていました。その一言があったから、サービス化をめざして実証実験しようと思えたところはあります。
ユーザーにも好評で、「刺さった」実感がありました。AI だとユーザーはむしろ質問しやすいと わかったのです。10 万人のフォロワーがいるスタッフに DM で質問するのはハードルが高く、ためらうお客様もいますが、AI なら「迷惑では?」とは思わず、気軽に質問できます。スタッフの側から見ても、24 時間 DM に対応するのは現実的ではありませんが、AI なら疲れることなくいつでも対応できます。

――今回は実証実験でしたが、本施策の今後の展開予定はありますか。

堀田:現在、プロダクト化に向け準備を進めています。お客様が AI との会話を楽しむだけでなく、的確に商品をおすすめして購入いただくまでの動線をいかにスムーズにするか検討中です。さらにブラッシュアップし、スタッフ本人が管理画面上で回答内容や会話のトーンを調整できるように設計しています。

EC 化率 35%UP!「PAL CLOSET」躍進の理由

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スマホを意識した UI/UX と EC アプリ開発

――EC サイト「PAL CLOSET」は年々売上を伸ばし、EC 化率も高まっていると伺いました。なぜこのような成果をあげられているのか、要因として考えられていることは何でしょうか。

堀田:当初約 5%だった EC 化率は、現在では 40%近くまで伸びています。要因は複合的ですが、初期は EC モールである ZOZOTOWN での成功体験が大きかったと思います。
ZOZOTOWN はユーザー数も多いので、自社サイトでゼロから販売するより結果が出やすいだろうと考えました。アルゴリズムを研究し、ランキングに載せるための工夫などの知見も貯まっていきました。
当時はまだ、「店舗で接客してこそ売れるものだ」という考えが社内にもありましたが、 ZOZOTOWN での成功を経て「EC も売れるのだ」という雰囲気になり、自社 EC「PAL CLOSET」に力を入れて成長させるフェーズに移行できました。2017 年以降、スマートフォンとパソコンの利用率が逆転しましたが、SNS は当時まだまだぐんぐん伸びており、SNS との相乗効果で EC の売上も増えていきました。3 年くらい経ち、コロナ禍前くらいに「PAL CLOSET」に本格シフトした形です。
EC サイトでは、スマホ仕様の UI を意識してサイトを構築しました。PC 画面ではサイトの見た 目や細かな表現が気になりがちですが、スマホの小さな画面では商品情報が第一で、ドメイン名やサイトの細かなクリエイティブはユーザーにとってさほど重要ではありません。そのためなるべく縦横フルに画像を表示できる UI にしました。

マルチブランド展開でコスト効率と成功体験の共有を実現

――実店舗中心のビジネスを行う中で、EC サイトにおいてはどのような工夫や注力をされているのでしょうか。

堀田:「PAL CLOSET」の中にすべてのブランドやサービスが統合するマルチブランド展開をしました。理由としては、会員基盤を大きくしてクロスユースをさせるためには、1 つのインターフェースにしなければと考えたからです。ブランドごとにサイトを分けるやり方は考えませんでした。
1 つのサイトに統合することは、コスト面でもメリットがあります。世の中のビジネスツールがSaaS にどんどん移行していますが、SaaS は基本的にドメイン単位の課金が多いです。サイトを統合していれば、ボリュームディスカウントも効かせられます。
そして最も大きな理由としては、成功体験、好事例を共有しやすいことです。同じ土俵、同じUI で施策を打てば、1 ブランドでの成功を他のブランドに横展開しやすくなるのです。
加えて、自社 EC アプリの開発も大きな成長要因でした。元々は情報発信アプリだったのですが、コロナ禍前に EC アプリに舵を切りました。それにより、店舗と EC の連携が進み、店舗でアプリをダウンロードしたお客様が、EC も利用する流れができました。
EC を伸ばす施策と店舗スタッフの SNS 施策(前編で解説)を並行して走らせたからこそ、ECと店舗が一緒に伸びる結果になったと考えています。

高速で PDCA を回し続け、「令和の商店街」をめざす

――素晴らしい施策の数々ですが、当たる施策をつくるコツはあるのでしょうか。

堀田:いろいろなカードを常に用意しておく感覚は大事ですね。ラッキーだったのは僕の管掌範囲が非常に広かったこと。打てる手が多い方が、賭けは勝ちやすいと言えます。
もちろん失敗した施策もたくさんあります。トライ&エラーを繰り返していると、撤退の判断も早くできるようになります。インターネットのメリットは、データで結果が出るため修正が容易なこと。数字で示せば、誰もが納得する形で仮説の検証ができます。
行動することで知見が貯まりますし、人と人の結びつきから新たな企画が生まれます。既存のアイデアを組み合わせ、最初からコストをかけすぎずに、スピーディーに PDCA を回すのが重要だと考えています。
また、AI などの先端技術を持ったスタートアップ企業との連携も大切にしています。スタートアップは適切なパートナーや、技術を試す場、実績が欲しいというニーズがあります。常にコミュニケーションをとり、プロダクト成長のために我々が貢献できるところも探しながら関係をつくるようにしています。

――デジタルマーケティング、デジタルコミュニケーションなどにおける今後の展開や展望についてお話しください。

堀田:今年約 500 億円だった EC の売上を 5 年後には 1,000 億円にすることを目標にしています。それに向けて着実に毎年 100 億円ずつ売り上げを積むのが僕のミッションです。
目指しているのは「令和の商店街」です。令和時代なのでテクノロジーをどんどん活用します が、それはあくまでパルのビジョンや方向性、スタッフの個性をサポートするためです。一方、「PASSION と LOVE」のあるハートウォーミングで距離の近さを感じられる"商店街"のような雰囲気を、今後も大切にしたいと考えています。
究極的には DtoC の集団でありたい思っています。それをどんどん横展開していく。とにかくスタッフ自身がいいと思ったものを、お客様にそのままの熱量で熱いうちに届けることをこれからも続けていきたいと考えています。「人」を軸に、商店街で買い物しているような楽しさやあたたかさを大切にしながら、芯のあるビジネスを作っていきたいですね。

インタビュイー紹介

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株式会社パル 専務執行役員

プロモーション推進部部長
WEB事業推進室室長
コミュニケーションデザイン室室長
堀田覚さん

前編「店舗スタッフが個人 SNS で集客し、給与にも還元 パルの OMO 戦略を支える『PASSION と LOVE』」はこちら