着物やドレスでも、オンライン・BtoB・グローバル展開の可能性は十分。三松が構想する多角的マーケティング

株式会社三松は創業91周年の老舗ながら、着物、ドレスを中心にハイグレード・ハイクオリティなファッションをトータルで提案・創造。EC「MIMATSU GROUP ONLINE STORE」や「Fashion Consulting Room」など、先進的な取り組みでも話題を呼んでいます。今回は、同社デジタル推進室室長の早乙女修氏に、三松独自の多角的マーケティングについて伺いました。

創業91年 老舗・三松におけるデジタル面での推進を総括

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EC黎明期から積み重ねてきた業務改善の実績

――まず、早乙女様の現在の業務ミッションと、三松のマーケティング部署について教えてください。

早乙女修氏(以下、早乙女):会社全体におけるICT、デジタル面の総括をしています。マーケティングに関しては、三松は専門の部署をもたず、各ブランドでそれぞれ取り組んでいる状況です。私は必要に応じ、販促会議などでアドバイスをしています。

――早乙女様はご自身のキャリアの中でどのようにマーケティングにかかわってきたのでしょうか。

早乙女:外資のジュエリーブランドでプレスを担当したことがキャリアの始まりです。その後、IT部門に移り、当時まだ業界でも少なかったECの構築に関わりました。また、商品が掲載された雑誌のWeb化にも取り組みました。
それまでは、商品が掲載された何十冊という雑誌を購入し、物流センター経由で毎月各店に送っており、非常にコストがかかっていました。店舗からしても、狭い店舗のストックで毎月溜まっていく雑誌の保管に困っていました。
そこで、商品掲載雑誌情報のエクセルデータをWebのデータベースに読み込ませ、関連ページをスキャンして紐づけました。これにより、雑誌名や掲載月による検索が可能になりました。コストダウンに加え、お客様の商品問い合わせに応じた検索データが取れるようになったことで店舗での顧客の反応が数値化され、マーケティングとして次のアプローチへのヒントにもなりました。今でいうDX化でもありますね。
三松に入社したのは2017年です。ITコンサルティングや商社のEC構築を経て、ドレスの会社に勤めていた時に声をかけていただいたことがきっかけです。当初のミッションはECのアップデート。複数のサービスの中からコンペで「ecbeing」を選び、ECをリニューアルしました。僕自身としては7回目のECサイト構築になります。
マーケティングに関しては、日本オムニチャネル協会に所属して今も学びを得ています。同業他社や他業界のマーケティング担当者と交流することで、インターネットでは得られない生の情報が手に入り、自社のマーケティング戦略にも役立てています。

着物・ドレスブランドならではのマーケティング戦略

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Xか、Instagramか、それとも......?ブランドごとに合うSNSを見極める

――三松では現在、どのようなマーケティング戦略を立てているのでしょうか。

早乙女:オフラインではブランドごとに戦略を立てて取り組んでいます。一方、オンラインのセールなどは全社で取り組む必要があり、ECでブランド横断企画を実施しています。
オンラインのマーケティング戦略で特筆すべきなのは、適したSNSがブランドごとに異なることです。たとえば、着物・アパレルブランド「ふりふ」はマニアックなファンが多く、ファン同士の交流などX(旧Twitter)で良い反応が得られています。
一方「AIMER(エメ) 」のドレスなど華やかな商品は、ビジュアルに強いInstagramでの反響が得やすい傾向があります。
商品が実際に誰にどのように受け入れられているのか、どのように人気が出たのかというのは、売上高だけでは分からない部分です。商品開発のときに目指した方向性と必ずしも一致しているわけではなく、データではじめて分かることがあります。

変わらないニーズと、変化し続けるマーケティングへの姿勢

――マーケティングにおいて、時代の変化に応じて変えてきた部分があればお聞かせください。

早乙女:七五三や成人式、卒業式、結婚式など「ライフイベントに着るもの」という商材の特性上、ターゲット層には大きな変化はありません。
一方で、時代の変化は感じています。たとえばライフイベント縮小による着用機会の減少です。結婚式がこじんまりとしたものになったり、パーティー自体が減ったりしているので、どうしても需要は減っています。また、数千円といった安い価格帯のドレスを販売する業者も増えてきました。
そのため、さらなるターゲット拡大や価格の見直しなどの対応を常に検討しています。
商品の打ち出し方、露出方法もトレンドに合わせてきました。昔であればTVドラマでドレスを出したりしていましたが、今はやはりSNSが重要なツールになっています。

とことん顧客に寄り添った地味な戦略の積み重ねが成功要因

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「3回クリックすれば買える」使いやすさを追求した結果、EC業績30%アップ

――2021年に「MIMATSU GROUP ONLINE STORE」をリニューアルされました。どのような意図で展開されているのでしょうか。

早乙女:以前は、在庫管理がアナログに近い形だったり、会員登録が手間だったり、支払い方法の選択肢が少なかったりする点が課題でした。課題の解決にあたり、「着物やドレスをECで購入したい」というニーズを持ったお客様に対し、「買いやすい場を提供すること」を大切にしようと考えました。
そのためにはやはり自社サイトである「MIMATSU GROUP ONLINE STORE」のリニューアルが必要との判断に至りました。
ECサイトリニューアルに関しては「3回クリックすれば買える」を目指し、使いやすさ(UI)を追求しました。たとえば、アカウント開設やログイン方法です。メールアドレス以外に、ソーシャル連携ができるようになれば、アカウント登録もログインも簡単になります。
また、支払い方法も選択肢を増やしました。カートの遷移数も減らして、できるだけ購買行動がスムーズになるように改善し、かご落ち対策も行っています。
細かいことですが、EFO(入力フォーム最適化)もユーザビリティに影響します。住所や氏名のフリガナを自動入力にしたり、番地の数字が自動で全角になったりすることによって「住所の入力が楽になった」とのお声もいただきました。
UIを高めて使いやすさを向上させたことも奏功して、ECの業績は前年対比130%にアップしました。現在、顧客体験の向上を考え、ブランドごとのアプリも開発検討中です。

骨格、パーソナルカラー、顔タイプ。すべての診断資格が揃っているからこそ提供できるサービス

――「Fashion Consulting Room」では、大手アパレルメーカーや商業施設で、「骨格診断」、「パーソナルカラー診断」の監修やイベントを実施されています。BtoBの取り組みはマーケティング戦略においてどのような位置づけなのでしょうか。

早乙女:弊社では2017年 から骨格診断の資格を取ることを推奨し始め、現在会社全体の約7%、35人ほどが骨格診断もしくは、パーソナルカラー、顔タイプ診断の有資格者です。
骨格診断、パーソナルカラー、顔タイプとすべての有資格者が揃っているのは当社ならではの強みだと考えています。その知見を社内だけに生かすのではもったいないと感じ、近年は社外への教育やイベント、サイトの監修事業も展開するようになりました。
気軽に試すなら流行のアプリでも診断できますが、購買までつなげられる説得力のあるアドバイスはきちんと勉強した有資格者だからこそできることです。BtoBの取り組みは、単発のコラボにとどまらず、強化していきたいと考え、模索しています。

――そのほか、これまで行ってきた中で効果的だと感じたマーケティング施策はありますか。

早乙女:特定の大きな施策というよりも、支払い方法や広告クリエイティブの工夫、SEO対策など、細かく地味な施策を積み重ねたことが結果につながっていると感じています。メルマガやキャンペーンなど、お客様の認知を増やす工夫は常に行っていますね。
また最近では、実店舗のスタッフ自身がモデルとなってEC上でコーディネートを紹介する「スタッフコーディネート」がお客様から好評です。
「店舗スタッフが提案したものがECで売れた」という経験は、ECに対するスタッフの抵抗感を取り払うのにも役立ったと考えています。

「素直で勉強熱心」社風が戦略立案の肝

――マーケティングは様々な変数が絡み合い、効果が変わってくると思います。三松では、どのように施策の意思決定をしているのでしょうか。

早乙女:各方面からの情報を常に収集し、いろいろな人から話を聞きつつ、他社の成功事例があれば、どんどん取り入れています。特に、自社が遅れていると感じる部分については「まず真似してみよう」と社員にも伝えています。
一方で、これまでの経験から感じる「肌感覚」も大事にしていますね。
加えて、創業90年を超える三松が時代に合わせて変化して来られた要因の一つは、社風だと思います。素直で勉強熱心な社員が多いのが強みであり、スピーディーに方針転換や施策実行ができる機動力につながっていると感じます。

顧客動線をイメージし、着る「人」と「タイミング」を増やす

――最後に、着物・ドレスという商材の可能性や今後の展望についてお話しください。

早乙女:着物やドレスは、人生の節目やセレモニーに必要とされる「コト消費」と直結します。今後は着る「人」と「タイミング」を増やすことで、ターゲット層を広げていきたいですね。
そのための1つのアイデアが、アプリを起点にコミュニティを作ることです。たとえば、演奏会でドレスを着る音楽家のコミュニティや、茶道・華道など着物で集まる人のコミュニティを作る。すると、演奏会やお茶会の宣伝、メンバー募集などで交流が生まれ、仲間が増えてブランドのファン層が育っていきます。
ターゲット層の広がりという意味では、アニメやゲームを通して日本の着物文化に憧れをもつ外国人が増えており、グローバル展開にも可能性を感じています。ただ、国によって気候や体型、柄の好みに違いがあるため、商品開発や売り方には工夫が必要だとも考えています。また、レンタルや二次流通、サブスクも検討中です。
これからも、顧客導線をイメージした上で施策を打っていきたいですね。

インタビュイー紹介

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株式会社三松

デジタル推進室室長
早乙女修さん