ユナイテッドアローズが考えるリテールの未来とは?時代の変化に応じたOMO推進と描く世界観の実現【イベントレポート】
- 2024.08.21
- 特集
2024年6月6日(木)・7日(金)の2日間、東京で開催されたBIPROGY FORUM 2024。その最後を締めくくる形で行われた特別講演「お客さまと共にリテールの未来を創る」では、BIPROGYが目指すリテールの未来ビジョンを示しながら、第一線でご活躍されている株式会社ユナイテッドアローズの木下貴博氏から、デジタル時代におけるOMO(Online Merges with Offline)の取り組みについて語られました。本記事では、木下氏の講演内容をレポートします。
<登壇者プロフィール>
木下 貴博 氏
株式会社ユナイテッドアローズ
ITソリューション本部 EC開発部 部長
2016年にOMOに本格着手し、EC売上は約3倍規模に
アパレル業界大手のユナイテッドアローズは、今年で創業35周年を迎え、昨年度の連結売上高では1342億円規模に成長。現在約30のブランドを展開しており、中でも主力3ブランドはそれぞれが年間300億円規模の売上を上げています。
ITソリューション本部EC開発部部長の木下氏は、大学卒業後、ITベンダーを経て2004年にユナイテッドアローズに入社し、アパレル業界に転身。以来、情報システムやデジタルマーケティングを担当し、現在はEC開発部に所属しています。
木下氏はまず、会社としてのビジネスの変化を語ります。
「以前は『セレクトショップ』という形で、海外で良い商品を見つけて来てお客様に紹介するというビジネスを中心としていましたが、現在はオリジナルにも力を入れており、工場とパートナーシップも強化しております」(木下氏)
また、近年ローンチした新ブランド、新領域についても紹介。これまでのアパレル中心のビジネスから、ライフスタイル全般を包括するサービスの提供へと進出していることを示しました。
同社のデジタル化への取り組みは2016年から本格化しています。O2OやOMOの戦略を掲げ、まずはオフラインとオンラインの会員統合を実施。ユーザーのデータベースを統合一本化し、自社ECの施策に生かしていったところ、現在までに自社ECの売上は約3倍に成長していることも紹介されました。
社内外のルールや前提の大変化を的確に捉え、対応する
次に木下氏は、デジタル化を本格始動した2016年と2023年について、3C分析を使って比較。下記のような変化と成長が見られたと言います。
- 顧客(Customer):自社ブランドの会員規模はアクティブユーザー90万名から130万名超に迫るまでに成長。
- 競合他社(Competitor):製造業のSPA化が加速。Eコマースチャネルの成長投資も各社増加しているものの、M&Aや統合が進み市場は様変わりした。
- 自社(Company):O2O、オムニチャネルからOMO、ユニファイドコマースなどへ取り組みが進化。
さらに、国際情勢といった外部環境にも大きな変化があったことを指摘しました。
「2016年以降はグローバル化が進む一方で、2017年のトランプ前大統領の誕生や2020年のイギリスのEU離脱などが象徴するように、様々な懸念が各国で浮上した時期でした。さらにそこから現在までに米中対立はさらに激しくなっていますし、またロシア・ウクライナ戦争、イスラエル問題など、当時には想像もできなかった出来事が次々と起きている状況です。つまり、今日までの前提やルールが明日突然変わるような予測不能な時代になっているのです」(木下氏)
経済面でも、コロナによるパンデミックを経て、「オフライン1本足の戦略は非常にリスクの高い状況になった」と説明。このような外部環境の中で重要なのはテクノロジーであると主張します。変化の速い時代だからこそ、テクノロジーを活用し変化への適用を進めていると言います。
テクノロジーの進化によりシームレスな体験が求められるように
続いて木下氏は、スマートフォンやネットワーク環境など、消費者向けのテクノロジーにフォーカスして解説します。
「iPhone7が出たときもすごいなと思いましたが、iPhone15Proや、このあとに出るiPhone16の世界では、性能が大きく進化し、大規模言語モデルがデバイス内で動かせるようになるとも言われます。5Gが普及していき、さらに今後6Gや次世代技術が普及していくと、通信環境はまた一段と発展していくでしょう」(木下氏)
そのような中で、ユナイテッドアローズが取ってきた戦略とは何か?木下氏はZOZOの成長事例を引用しながら、ファッションEC市場全体の拡大を説明します。
「ファッションEC市場の規模は7年間でユーザーも売上も2~3倍に成長しています。自社においても、顧客売上の自社ECシェアが2016年時点での数%程度から、現在では店舗とECのクロスユースを含めて30%に迫っている状況です」(木下氏)
その背景には、発見~購入という顧客の購買プロセスの中に、オンラインが溶け込んだことがあります。「現在は店舗とECを分けて考えることすらはばらかれる」と木下氏が語るように、シームレスに行き来できる購買体験を設計することが重要になっているのです。
ユナイテッドアローズでは、このような世界観の実現に向け、OMOやユニファイドコマースという言葉を使いながら繋ぎ目のない購買体験を目指していると言います。
1歩先を見据え、期待値を超えるために。BIPROGYとの連携を生かす
木下氏は、未来に向けた話に話題を移しました。時代の変化により、消費者の期待は加速するとともに変化もしていきます。その期待に対し、「半歩先、1歩先を見据えて、常に超えていかないといけない」と木下氏は意気込みます。
そして、ユナイテッドアローズが今後に向けて行っているプログラムについて紹介しました。
「会員プログラム制度を昨年変更しました。以前はポイント制にしていましたが、変更後はアクションマイル制を取っています。貯めたマイルは交換していただくことで、クーポンなどのインセンティブに変わる仕組みです。業界内ではこのような制度を運用する会社はまだ少なく、挑戦的な取り組みでしたが、お客様の期待の1歩先を行くために必要と判断し、実行しました」(木下氏)
最後に、BIPROGYとの協業についても触れました。ユナイテッドアローズがBIPROGYのSaaSプロダクトである『デジタラトリエ』へとシステムのリプレースを行ったのが2022年。そこから2社はパートナーシップを組み、顧客の購買体験の向上に向けて取り組みを進めてきました。木下氏はこのパートナーシップの重要性を強調するとともに、今後の展望を述べました。
「BIPROGYさんのSaaSと、その裏にいる『人』がとても重要だと感じています。BIPROGYの皆様が我々と同じ目線に立ってくださっている結果、リプレース後の自社EC売上高は年平均成長率120%超の高成長を続けることができています。このような変化の激しく難しい時代の中でも、もう一段成長角度を上げていくために、BIPROGYさんと今後もより強固なパートナーシップへと発展させ、共に取り組んでいければなと思っております」(木下氏)
木下氏の講演から、アパレルや小売業界におけるデジタル化の重要性、急速に変化する環境への柔軟な対応の必要性が浮き彫りとなりました。ユナイテッドアローズの取り組みとその成長実績は、デジタル時代を生き抜く変化の好例であると言えるでしょう。