商材や施策は異なれど、マーケティングには「熱量」や「泥臭さ」が欠かせない 若手マーケター座談会【後編】

若手マーケター同士がざっくばらんに悩みややりがいを共有しあい、取り組みのヒントを得ることを狙いとして実施した座談会。後編は、今感じている課題や、各社固有の取り組みに対しての話題が中心となりました。参加者は前編「アパレル、寝具、システム。多業界に共通するマーケティングのあり方とは? 若手マーケター座談会」に続き、株式会社ビームス 岡村 拓哉氏、株式会社パル 宮川 広士氏、西川株式会社 辻谷 芽生氏、BIPROGY株式会社 島田 佳奈の4名です。

マーケターが感じる課題とギャップ

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泥臭い取り組みが課題解決への突破口に

――現在、マーケティング業務において課題に感じていることは何ですか?

辻谷芽生氏(以下、辻谷):寝具は毎年買い替えるものではないため、2021年から立ち上げたコミュニティサイト「みんなの眠ラボ」では、結婚や出産、引っ越しなどのタイミングでの買い替えを狙う、長期目線の運営をしています。
サイト立ち上げから3年が経ちましたが、まだまだ定量的なデータが少なく、コミュニティが実際にどう売上につながっているか見えづらい面があります。単年のKPI設定も含め、社内にどう理解してもらうかも課題に感じています。

宮川広士氏(以下、宮川):パルは各ブランドの売上、ページのセッション、コンバージョンレートなど、さまざまな分析のサマリーレポートを発行し、現場に共有しています。中には「この数値を出してほしい」「前年比は出せますか」などと言ってくれるスタッフもいるのですが、全員がそのような「データを使う」意識を持っているわけではありません。
ブランドやスタッフによって、データ活用に温度差があることが課題ですね。数値をなるべく噛み砕いて説明したり、ダッシュボードの活用方法などをよりわかりやすく伝えなければいけないと感じています。

岡村拓哉氏(以下、岡村):確かに、「前年比」と言ってもあまり伝わらないことがありますよね。データや数値をどう落とし込むかは同じく難しいと感じます。
ビームスでは役割が細分化されているため、それぞれのプロフェッショナルという意味では良いのですが、僕も含めてつい自分の領域のみに集中しがちです。より広い視野で店舗やレーベルを捉えられるようになる必要があると考えています。
また、従来はトレンドをセレクトショップやブランドが発信をしていましたが、今はそれとは別でインフルエンサーやコミュニティからトレンドが生まれます。顧客の心をつかむためには、僕らもそれをキャッチアップしていかなければなりません。
マーケターとしてはデジタルやメディアだけではなく、VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)など店舗のリアルもしっかり見ないといけません。そのためには、アパレルではない他業種の人と話すことも刺激になりますね。

島田佳奈氏(以下、島田):BIPROGYの商材はシステムですから、そもそも見えないものを売る難しさがあります。また機能が日々アップデートされますが、システム運用の専門家ではないお客様にそれを説明してご理解いただくのも難しいですね。
SIerの特性上、実際の現場のリソースやQCD(品質・コスト・納期)の問題を感じています。制約がある中でどれだけお客さんの要望を叶えられるかという中で、泥臭いことの連続です。

良い施策の源泉は、ブランドやプロダクトに対する熱量

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宮川(パル):僕も販売員の頃は本当に泥臭い、肉体労働ばかりでした。アパレル業界は華やかなイメージがありましたが、ギャップを感じたことを覚えています。その一方で、ファッションに対する熱量や、ブランドに対するエンゲージメントが高い方が多いとは思いますね。

岡村(ビームス):アパレル業界は体育会系の雰囲気がありますよね。お客様に想いを伝えるのも、施策に巻き込むのも、結局は「熱量」だと感じます。私見ですが、アパレル企業のスタッフは、服に限らずいろいろな趣味を持っていて、素敵なライフスタイルを体現している方が多いと感じます。「生き方がかっこいいな」と思う人と出会うことができたのは、入社前には予想していなかったギャップかもしれません。

辻谷(西川):私は入社前、nishikawaの商材に高価なイメージを持っていました。でも実際に使ってみて「ただ高いだけじゃなく、本当にいいものだからこの価格なんだ」と腹落ちしました。本当に良い商品を作ろうという熱量を持って商品開発していますし、社員が「本当に良い」と思ったことだけをお客様に提案している。それは入社したからこそわかったことだと思います。

ブランドや商材の特性に沿った施策とは?

nishikawaの取り組みに見る、長期目線のマーケティング

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島田(BIPROGY):洋服であれば、トレンドや季節に応じて買い替えることもありますが、寝具のように長く使えるものであればあるほど売りにくくなりますよね。どのように考えているのですか?

辻谷(西川):やはり口コミを大事にしています。ECサイトの口コミも有用ですが、身近な方の口コミが1番重要です。SNSであればUGCという概念ですね。コミュニティを運営しているのもそういった理由です。

宮川(パル):ECの購入について、洋服であれば画像を見て「このモデルの身長が180cmなら、サイズは大丈夫だな」などと想像がつきます。でも、使ったことのない寝具をECで購入するのは、正直ハードルが高い気がします。睡眠を大事にされる方も多いですし、多分一度「合わないな」と感じられたら、次に買ってもらうのは難しいと想像します。西川さんでは、リピートのお客様も多いのですか?

辻谷(西川):特に枕はリピートが多いですね。実は枕の買い替えの目安は、だいたい2~3年です。へたってくると体に合わなくなって寝心地が悪くなりますし、合わないものを使い続けると肩が痛くなってしまう原因にもなり、さらに体格が変わることもあるのでメンテナンスすることが重要です。そのためnishikawaのオーダーまくらは、店頭にお持ちいただければ体に合わせて高さを調節することもできるよう、サポート体制を敷いています。

宮川(パル):えっ、購入後も枕の高さを店舗で調整してくれるんですか?

辻谷(西川):はい。「Siestarea(シエスタリア)」という直営店や専門店で行っています。社員にとって、店舗で高さ調節を行うのは当たり前の認識でした。今の宮川さんの反応がまさにですが、そういった訴求がうまくできていないなと感じています。実は、寝試しができたり、寝具のサブスクもできたりするのですが、私たちの力不足でなかなか伝わっていないですね。

宮川(パル):寝具のサブスク!「寝試しOK、購入後も調整できます」とSNSで訴求したら、興味を持つ方も多そうです。

岡村(ビームス):僕なら、試して良かったらきっとそのまま買っちゃいますね(笑)。

アパレルの強みは販売スタッフにファンがつくこと

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岡村(ビームス):実はビームスにも、コミュニティサイトを持つレーベルがあります。ゴルフ関連など「濃いファン」が多いレーベルは、お客様一人ひとりの熱量が高いので、アイテムに関する情報交換や着こなし、ゴルフ場の共有までを積極的に行っています。共通の趣味を持った人とコミュニケーションが取れる場という安心感が、より交流を促進しているのかもしれません。

島田(BIPROGY):ビームスさんはコアなファンがたくさんいるイメージです。

岡村(ビームス):アイテムそのもののファンも多いのですが、スタッフのファンになってもらえることも多いと感じます。店舗の販売スタッフや看板バイヤー、書籍を出版した人気スタッフにもファンがいます。スタッフのライフスタイルに影響を受け、ファンになってくださる方が多いですね。人気のあるスタッフに関しては店舗来店イベントやトークショーなども実施しています。

島田(BIPROGY):なるほど。商品だけでなく、様々な活動を通じてファンになってもらっている意味では、ある種のインフルエンサーマーケティングとも言えそうです。

他業種・他業界からの刺激が、次のマーケティング施策のヒントに

――最後に、座談会の感想や今後への意気込みを一言ずつお願いします。

島田(BIPROGY):違う業界のお話は新しい発見ばかりでとても勉強になりました。これからもお客様の要望と、その背景への理解も深め、お客様のビジネスに貢献できるシステムやサービスを提供していきたいです。

辻谷(西川):「nishikawa=高級寝具」というイメージがあると思いますが、実はお手頃なブランドや、寝ている間にスキンケアができる商品や眠りについてのサービスもあります。今日お話ししてみて、SNSなどを活用してもっと認知度を上げていかなければと思いました。皆さんの取り組みに触れ、スピード感を持った施策やデジタル活用について、大変勉強になりました。

宮川(パル):同じアパレルでも毛色の違うビームス、また寝具の西川、システムのBIPROGYと、他社の方のお話からはいくつも発見がありました。自分自身の今後の目標としては、新規顧客の商品購入後の動きを、BIツールで見える化することです。今日の発見を少しでも業務で活かせるようにしていきたいと思います。

岡村(ビームス):ビームスは2026年で50周年を迎えます。そこに向け、全社でもう1段階、2段階ギアを入れていきたい中、こういった場に参加させていただけて、新たな気づきも得られて、貴重な機会になりました。僕自身もギアを上げて、取り組みを進めていきたいと思います。

インタビュイー紹介

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株式会社ビームス

マーケティング本部
宣伝販促部
販促課プレス
岡村拓哉さん

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株式会社パル

Web事業推進室
宮川広士さん

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西川株式会社

イノベーション・マーケティング戦略事業部
マーケティング戦略部
広報・広告担当
辻谷芽生さん

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BIPROGY株式会社

インダストリーサービス第一事業部
営業二部
コマース&サービス営業所
コンサルタント
島田佳奈

前編「アパレル、寝具、システム。多業界に共通するマーケティングのあり方とは? 若手マーケター座談会」はこちら