マーケターにとって施策を打つよりも大切なこととは?
マーケ支援のプロが語る、BtoBマーケティングに必要な視点【前編】
- 2024.12.18
- 特集
デジタルマーケティングを支援するBtoBテクノロジー企業、株式会社WACUL(ワカル)。コンサルタントが提供する価値の自動化を掲げ、デジタルマーケティングの分析・改善ソリューション『AIアナリスト』が話題を呼んでいます。今回は代表取締役である垣内勇威氏に、BtoBに必要なマーケティングの視点を伺いました。前編では、BtoBマーケティングのポイントについて語っていただきます。
社外発信に注力しつつ、自らコンサルもする代表取締役
ベンチャー企業で鍛えられた定性的な顧客理解スキル
――貴社は共同代表制を取られていますが、垣内さんはどのようなミッションを担って活動されているのでしょうか。
垣内勇威氏(以下、垣内):私は主に社外向けの活動を担当し、もう1人の共同代表である大淵がプロダクト開発や従業員のマネジメントなど、主に社内向け業務を担当しています。社外向けというのは、イベントやウェビナーへの登壇やこのような取材対応を含め、広報活動やデジタルマーケティングについての発信です。
また、自分自身で大手企業を中心にコンサルティングも何件か担当しています。現場感がないと知見も深まりませんので担当を持つことを代表となった今も大切にしています。加えて、産学連携型の研究所「WACUL Technology & Marketing Lab.」所長として、日々コンサルティングで溜まっていく当社の知見を刷新し、自社ソリューションへ還元し続けています。
――キャリアの中でどのようにマーケティングに関わってきたのでしょうか。
垣内:たまたま入った前職が、デジタルマーケティング関連の会社だったのです。前職にはアルバイト時代からお世話になり、アクセス解析をしていました。
デジタルマーケターというと、SEOやリスティング広告などWeb周りの知識が必要とされるというイメージを持たれる方が多いかもしれませんが、私が重視しているのは「顧客理解」です。インタビューや行動観察を通して定性的に顧客の行動を分析し、SEOや広告などの個別接点も含めた顧客コミュニケーションに落とし込むことを得意としています。
WACULだからできるデジタルマーケティング支援
データを元に「勝ちパターン」を自動で提示する
――貴社ではどのような戦略のもと、DXやマーケティング支援を行われているのでしょうか。
垣内:まずは、デジタルマーケティングのコンサルティングです。コンサルティングはいかにお客様に動いてもらうかが大事な仕事ですので、そのためのデータ収集・分析やインタビューなどを通し、根拠のある施策を立て、導いていきます。
コンサルティングを行う中で、実際に手を動かすマーケターのアサインを求められるケースも少なくありません。そこで最近では、マーケターのフリーランスマッチング事業にも取り組み、アウトソーシングへの対応力を高めることもめざしています。
どの活動も、起点となるのは「コンサルティングの自動化」に取り組む姿勢です。レベルの高いコンサルティングは、一般的に高コストであり、さらに人材が限られる傾向にあります。そこで私たちは、データに基づく業務の簡略化を行い、誰でも成果が出る支援体制の構築をめざしています。そこで開発したのが『AIアナリスト』です。
――『AIアナリスト』と研究所「WACUL Technology & Marketing Lab.」について、詳しくお聞かせください。
垣内:どちらも、めざしているのはデジタルマーケティングにおける「勝ちパターン」の提示です。『AIアナリスト』は、マーケティングDXを自動化するAI分析ツール。これまで蓄積してきた知見に加え、膨大なデータを搭載し、そこから顧客の業種・商材や企業規模などに合わせたマーケティングコミュニケーションの改善施策を引っ張り出して、伴走しています。メールシステムやアプリ開発ツールを提供している会社さんと提携してデータを共有いただき、当社が解析することで、より多くの勝ちパターンを見出すことが可能になりました。
デジタルマーケティングの分野では、次々に新しい手法や新しい媒体が生まれるが故に、既存のアプローチも含めての"あるべき方法論"を改めて見直す機会が少なく、非効率かつ意思決定の基準があいまい、または意思決定がしづらいケースが多くあります。そこで、様々なビジネスのデータを用いて、マーケティングの課題を解決するテクノロジー開発と未知の知見の発掘・提言をミッションとして立ち上げたのが「WACUL Technology & Marketing Lab.」です。思考停止に陥りがちな部分を明らかにし、デジタルマーケティングを効率化することが最大の目的です。
「デジマに感覚はいらない」データに従い、不要な施策を排除
――マーケティングを最適化するデータ活用のポイントを教えてください。
垣内:私はデジタルマーケティングにおいては、感覚はいらないと思っています。顧客の創造やプロダクトの開発など、広義の「マーケティング」にはクリエイティブな感性が求められる領域はあります。しかし、デジタルマーケティングはあくまでそのうちの一部の手段にすぎず、データを基に定石に従って行動することが何よりも重要。それ以外の不要なプロセスは排除した方がいいのです。
私たちがお客様に伝えるのは、「必要のある提案」のみです。例えば先日、とある企業様からWebサイトの改善提案を依頼されたときのことです。そのサイトに残念ながら伸びしろが大きくないと判断した私は、「Webサイトを直す必要はありません。他にすべきことがあります」と伝えました。マーケティングの効果を得たいと思うなら、Webサイトの改善にお金を使うよりも、そのお金で他の施策を打つ方がいいだろうと私は感じました。
その企業様はWebサイトの改善をとにかくやりたいというスタンスでしたので、失注してしまったのですが、「依頼が来たから」「売り上げになるから」といった理由で仕事のための仕事を作ることはしたくないと思いながら日々活動しています。
「マーケティングのトレンド」よりも、本質的な価値の提供を
――マーケティングにおいて、時代の変化に応じて変えるべき部分と、変えるべきではない部分は何でしょうか。
垣内:時代に応じて、テクノロジーは進化していきます。お客様への提供価値を高められるものであれば、新しい技術や手法は当然導入すべきでしょう。しかし、あくまで手段が変わるだけのことで、「顧客理解」の本質は変わりません。
私は、基本的にトレンドは追いません。なぜなら、顧客の行動特性はそんなに変わらないからです。それよりも、本質的な価値の提供を重視したいと考えて、テクノロジーや流行りの手法に飛びついて、ソリューションをつくるようなことはしていません。
BtoBマーケティングを成功に導くポイントとは
泥臭い社内調整こそ成功への近道となる
――BtoBマーケティングに取り組む企業が増えていますが、多くの企業がぶつかる壁や課題は何でしょうか。
垣内:実は多くの場合、マーケティングで行うべき施策自体はある程度決まっているものです。しかしそれを実施するために必要な「社内調整」で壁にぶつかるケースが多々あります。
例えば営業部門は、SFAなどのツール導入に対して抵抗を示す傾向があります。その理由は、マーケターと営業担当者の考え方や特性が異なるからです。営業の現場感を理解せずに正論を振りかざすだけでは、施策は頓挫します。組織の細分化が進んでいる大企業ほど、その傾向がありますね。社内においても、時間をかけて実績と信頼を積み重ねながら変えていかなければならないのです。
一方、中小企業・ベンチャーでは、エンタープライズ(大企業)営業に課題があります。BtoBのSaaSスタートアップでは、初期段階では大量の中小企業にアプローチするスタイルが主流ですが、実は大企業にターゲットを絞るほうが効果的なケースもあるという視点を持っておきたいところです。
ターゲット企業に応じたアプローチが肝
――では、具体的にBtoBマーケティングはどのように進めると良いのでしょうか。
垣内:まず大切なのは、「ターゲット企業数」に応じたアプローチを行うことです。
例えばターゲットが少数の場合は、個別対応によって深い関係性を構築すること。逆に数百~数千社にわたる中小企業をターゲットとする場合は、リードを大量に獲得してそのうちの一定割合を商談につなげることを考えます。
「既存顧客リストの有無」も重要です。リストが既にある場合には、新規獲得よりも先に既存顧客に向けた営業、つまりアップセルやリピート購入を促すアプローチをする方が効果的です。一方でリストがない場合は、アプローチの土台となる新規リードを作っていく必要があります。
「顧客の知識量」によっても、対応方法は異なります。顧客自身がきわめて豊富な商品知識を持っているなら、オンライン上で必要な情報をスムーズに提供し、顧客自身による判断の助けになる仕組みを整えることが有効です。具体的には、製品スペックや仕様を網羅的に掲載し、検索しやすい構造にしておくことです。
一方、顧客の持つ知識が少ない場合には、デジタル上で提示するのは製品の概要のみ。できるだけ早く営業担当者がアプローチし、顧客に直接説明することが、成約につながります。
マーケターに必要なのは、やるべきことを貫く「胆力」と「知識」
――BtoBマーケティングを行う際に外せないポイントは何でしょうか。
垣内:マーケティング部門をコストセンターとして捉え、「効率化」をKPIに設定することですね。先ほども説明したように、マーケティングでやるべきことはどの企業もある程度決まっていますから、よくある「とにかくいろいろな施策を打ってリード数を増やせ」といったKPI設計は、そもそもずれています。それよりは、いかに無駄なリソースを使わずに一定の効果が出るマーケティングを回せる体制をつくれるかの方が重要です。
また、マーケティングをアウトソースするのはもちろん良いのですが、施策を「やる・やらない」のジャッジは発注側がするべきです。たとえ上層部や他部門からの提案があっても、やるべきでないことはやらないと判断できる。担当者に求められるのは、そんな「胆力」と「知識」です。「正しいことをやり切りたい」という気概のある方をどんどん支援したいですね。
インタビュイー紹介
株式会社WACUL
代表取締役
垣内勇威さん