「欲しいアイテムが、青山なら見つかる」デジタル✕店舗で挑むアパレル新時代
青山商事が仕掛けるビジネスウェアにおけるOMOへのアプローチ【後編】
- 2025.03.12
- 特集

全国47都道府県に店舗をもち、紳士服メーカー最大手として高い認知度を誇る青山商事。都心・OMO型店舗の『SUIT SQUARE』やオーダーサービス『SHITATE』など、店舗の強みとデジタルの可能性を掛け合わせた戦略が話題を呼んでいます。OMO戦略について同社EC事業部 副部長である細山清孝氏に聞く本記事。前編では、業界トップクラスの会員登録数を誇るスマートフォンアプリや、店舗で支持を集める独自システムについて語っていただきました。後編では、OMO型店舗経営のあり方やインバウンド需要への対応について、語っていただきます。
OMO型店舗やオーダーメイドサービスのきっかけは「都市型店舗の限界」

圧倒的多数を占める実店舗の売上にテコ入れする
――現在、実店舗とECの併用率はいかがでしょうか。
細山:店舗のみの利用率が圧倒的です。理由としては先述したように来店のサイクルが非常に長いことが挙げられます。来店してその場で決め、購入。次の来店は当分先、というお客様が多いのです。そんなお客様にいかにECを試していただくかというのは、永遠のテーマです。とはいえ、無理やりECに誘導しても、LTVは上がらない。あくまでお客様本位の取り組みが大切です。
店舗で購入した際のレシートに記載されているQRコードを読み取ると、ECサイトで特典を得られる。その特典を使ってECで購入した商品の受取を店舗に指定し、再度来店する。こんな風に、次の購入に何らかのインセンティブをつけることで、店舗とECでの購入がつながっていくケースも見えてきているので、仕掛けの部分には注力しています。
――2023年に『THE SUIT COMPANY』から屋号変更した『SUIT SQUARE』はOMO型店舗としてスタートしています。その背景にはどのような課題があったのでしょうか。
細山:スーツの業界では、店舗に大量の商品を並べ、お客様が来店して選ぶ形式が主流でした。しかし、顧客の購買行動がオンライン化し、店舗の存在価値が変わっていく中で、従来の「大量の商品を並べる」店舗運営が持続困難になっていました。そこで、新しい店舗モデルの必要性を痛感したのが、OMO型店舗に移行したきっかけです。『SUIT SQUARE』は「デジラボ」というシステムを全店で導入しています。
――店舗・EC両方の在庫から商品を選べるタッチパネル式のシステム「デジラボ」は、新しいお店のかたちとして支持を得ています。具体的にどのような工夫や仕掛けが取り入れられているのでしょうか。
細山:店頭には、全店の在庫と連動したタッチパネル式の大型サイネージやタブレット端末が設置され、試着・確認可能なサンプル商品も最小限配置しています。販売員の接客を受けて実際の商品の色柄や着心地などを確認でき、ECと全国の店舗にある在庫の中から色や柄、サイズなど好みの商品を購入できます。
購入した商品は自宅に配送されるので、商品を持ち帰る必要もありません。帰省先の店舗で購入して自宅で受け取るなど、多様なニーズに対応できます。
現在『洋服の青山』では約300店舗で導入しており、全店舗導入を目指して拡大しているところです。当社としても、小型店舗の展開が可能になり、都市部出店のハードルが下がりました。地方店舗でも売り場効率が上がり、空いたスペースに別のビジネスモデルを導入して売上を作れるようになっています。
スーツは「制服」から「自分を表現するツール」へ
――オーダースーツブランド『Quality Order SHITATE』はどのような経緯で生まれたのでしょうか。また、導入後の反響はいかがでしょうか。
細山:かつてのスーツは学生における制服のような存在で、何も考えずに着られる手軽さが重視されていました。しかし、コロナ禍を経て生活様式が一変し、スーツは"自分を表現するツール"になりつつあります。自分なりのこだわりを反映したスーツが欲しいと考える方が増えているのです。
従来、オーダースーツは高価格で敷居が高く、納期も長いというイメージがありました。しかし、青山らしくオーダースーツを作るのなら、既製服と同じくらいの価格帯で短納期の商品にしたい。それが『Quality Order SHITATE』の構想です。
このサービスをスタートできた背景には、デジラボの導入で店舗在庫が減り、余剰スペースが生まれたことがあります。そのスペースを活用して採寸や顧客ニーズのヒアリングができるようになったのです。
とはいえ、利用されるお客様全員が最初からオーダースーツ目的で来店するわけではありません。既製服を買いにいらした方が接客提案の中でサイズや色柄、ディテ―ル選びの自由度が高いオーダースーツを選ばれるケースも多いですね。
オンラインの強みを活かした施策が、店舗にも顧客を引き寄せる

10代からシニアまで、幅広い対象に向けたサービス展開
――ECのオンラインコンテンツも非常に充実している印象です。どういった狙いがあるのでしょうか。
細山:当社はお客様の年代が幅広く、10代からシニア層までをターゲットに含んでいます。中でも2月・3月の「フレッシャーズ商戦」は、10代が主役となる重要な時期。若年層にアプローチするためのプロモーション展開として、旬のアイドルやタレント、SNSで人気のインフルエンサーを活用したオンラインコンテンツを展開しています。
――オンラインのレンタルサービス『hare:kari』についてもお聞かせください。
細山:"ハレの日に最高の一着をかりよう"をコンセプトとして2021年に立ち上げたオケージョン服のレンタル専用サイトです。商品の予約から返却までがネットで完結するため、手軽に利用できると好評をいただいています。
パーティーフォーマルなどのオケージョン需要が中心で、1回しか着ないアイテムに特化した商品ラインナップを厳選している点も重宝されているようです。
レンタルで初めて当社を利用された方でも、次回は商品を購入されるかもしれません。時代に応えるような形でサービスを開発し、お客様を発掘していきたいですね。
多言語対応や越境LIVEコマースで新たな販路を開拓

インバウンド顧客の満足度は「双方向コミュニケーションが生む信頼感」が肝
――インバウンド需要が増えています。貴社でもECサイトの多言語化を実施されていますが、その背景と効果についてお聞かせください。
細山:インバウンドのお客様が多い店舗では、「日本のお店で接客を受けた」という体験そのものが重要です。顧客満足度の高い買い物をしていただくため、できるだけ多言語対応できるようにスタッフを配置しています。
しかし、全国すべての店舗スタッフが外国語を学ぶのは現実的ではありません。むしろ、店舗スタッフをサポートしつつ、同時にお客様の満足度も向上できるデジタルツールを活用していくことが、OMOの基本的な考え方ではないでしょうか。
そこで実施しているのがECサイトの多言語化です。加えて、店頭のサイネージも多言語化したいと構想しています。例えば、中国のお客様が来店された場合、サイネージで中国語に翻訳された詳細な商品情報を見ることができれば、店舗スタッフが説明する必要がなくなります。お客様はより深い商品理解が得られ、店舗スタッフの負担も軽減される。双方にとって有益なサービスとなります。
特に中国のお客様は横のつながりが強く、満足した方が友人を連れてきて、その友人がさらに他の友人を連れてくる......といった連鎖的な来店が発生するのが特徴です。ブランドのファン化をさらに促進したいと考えています。
――越境LIVEコマースにも取り組まれているそうですが、効果はいかがでしょうか。
細山:中国現地への新たな販売チャネルの開拓を目指して始めました。現地モールへの出店には高いハードルがあったため、中国で最も影響力のあるECプラットフォームの一つである淘宝直播(タオバオライブ)を活用しています。
ライブでの売上規模自体はまだ大きくありませんが、予想外の商品が売れることもあり、短時間での売上や顧客反応がリアルタイムで確認できる点は非常に興味深いですね。
スーツでもカジュアルでも、「青山ならきっと見つかる」を目指して
店舗がもつ顧客データと絆を活用し、よりパーソナライズを推進
――貴社としての今後の展望についてお話しください。
細山:OMO戦略は中期経営計画においても重要な柱と位置づけています。単にEC事業の売上拡大を目指しているのではなく、店舗とECの連携を通じて全社的な売上の最大化を図ることが目的です。しかし現状では、店舗の強みである採寸データやお客様との関係性を十分に活用できていないという課題があります。
そこで、店舗で計測されたお客様のヌード寸法(バスト、肩幅など)をデータプラットフォームに統合し、過去の購入履歴と組み合わせて、EC上で最適なサイズや商品をレコメンドする仕組みの構築を進めています。その際にはサイズだけでなく、お客様の趣味嗜好や着用スタイル(ゆったり目・ぴったり目など)を考慮した上で、AIによるパーソナライズレコメンドの導入も検討しています。お客様が商品を選びやすくなり、サイズの選択ミスによる返品や交換率も下がると期待しています。
――ビジネスウェア市場の今後の展開についてのお考えをお聞かせください。
細山:オフィスカジュアルがさらに一般的になり、服装の自由度は高まっていくでしょう。ある意味「何を着てもいい」という時代が到来しつつあります。商品ラインナップを増やし、スーツに代わるアイテムも開発していく必要を感じます。
一方、スーツは「こだわりを持ち、価値を見出してかっこよく着る」ものになっていくのではないでしょうか。大事な場面やおしゃれに決めたいときにスーツを選ぶ方が増えていくような気がしています。
そんな市場だからこそ、「洋服が欲しいときは、青山に行けば何かしらあるだろう」と考えていただけるようにしたいですね。そのためには、やはりお客様目線が大切。店舗とECの強みを最大限に活かしながら、データとテクノロジーを活用した新しい購買体験の創造を目指していきたいですね。
インタビュイー紹介

青山商事株式会社
EC事業部 副部長
細山清孝さん
前編「20年前から取り組んだ、店舗&EC連携のデジマ戦略 青山商事が仕掛けるビジネスウェアにおけるOMOへのアプローチ」はこちら