「緩やかなつながり」を可視化することで自社の顧客理解も深まるコミュニティと界隈、ユーザー理解を深める新たなマーケティングアプローチ【後編】

コミュニティ内外のさまざまな数値をデータ化し、根拠を持ったコミュニティ運営のサポートを行うKEEN株式会社。前編では、代表取締役Founder&CEOの小倉 一葉氏に、コミュニティマーケティングの有用性、創業の経緯などについて伺いました。後半は今注目される「界隈」に着目し、どのような視点でマーケティングを行う必要があるのかについて伺います。

自社のファンになりそうな「顧客」を見つけ出す

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「界隈」は、非顧客・未顧客に関わらず「言及している層」

――「界隈」という概念とマーケティングとのつながりについて、教えていただけますか。

小倉一葉氏(以下、小倉):「界隈」は、2024年の流行語大賞にも選ばれた言葉です。例えば従来型のターゲティング広告では「都内在住 30代 女性」などとデモグラフィック情報を中心にセグメンテーションするケースがよくあります。しかし、実際に「都内在住 30代 女性」にあたる人であっても、日ごろ摂取している情報は人によってかなり異なります。そこで、デモグラフィック情報に縛られず、新たなセグメンテーションの軸として注目されているのが「界隈」です。「界隈」は特定の趣味嗜好を持つ人たちの集まりであり、コミュニティほど帰属意識が強くないことが特徴です。
「界隈マーケティング」とは、いわば「SNSのアルゴリズムによって形成される自己」をベースとしたもの。特定の商材のユーザーではなく、コミュニティよりも緩やかなつながりをターゲティングして分析し、施策を打ちます。このような行動パターンや共通の関心事項などは、民俗学や行動心理学にも接点があると感じています。

――界隈マーケティングにはどのような特徴があるのでしょうか。

小倉:我々の考える界隈マーケティングは、非顧客・未顧客に関わらず、対象になるモノやコトや価値観に対して「関心がある層」 が対象です。コミュニティマーケティングが、既存顧客の中に情報を流通させることによってLTVの向上や情報のリーチを行うものなのに対し、界隈マーケティングは「非顧客だけど、自社のファンになりそうな層」もターゲットとする点で対照的です。

「界隈」の分析により、施策の可能性が広がる

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――「界隈マーケティング」のポイントを教えてください。

小倉:自社の製品・サービスが「何界隈の人たちに受け入れられやすいのか」など、「界隈」に着目して生活者とコミュニケーションを取りたい企業は増えてきている印象があります。界隈はターゲティングが肝となります。現在弊社では、対象の製品に対して発信している人たちの「界隈」を捉え、そこでのトレンドや、界隈の中で影響力のある人たちの探索を行っています。具体的には、SNS上で発信しているアカウントのプロフィール情報、投稿の履歴を、AIを活用して収集・分析するのです。
例えば、「クラフトビール界隈(クラフトビールが好きな人たち)」のアカウントの分析を行ったところ、プロフィール等の共通項目の上位に「ポケモンGO」「マウンテンバイク」「サウナ」などが入っていました。それを踏まえると「この界隈の人たちは、旅をしながらクラフトビールを楽しんでいるのではないか?」と仮説を立てることができます。
この仮説が立てられると、「クラフトビール」に関連する訴求以外にもさまざまな施策が考えられます。例えば他企業とのコラボレーションの可能性も広がっていくでしょう。隣接する別の界隈や混ざり合っていく界隈を見つけることで選択肢が広がっていくことも「界隈マーケティング」の面白さです。

データに基づいた理解あるコミュニケーション設計を

リスペクトのない界隈へのアプローチは厳禁

――「KEEN 界隈DB」を活用された界隈マーケティングの事例をご紹介いただけますか。

小倉:昨年UUUM社のTOBを発表したフリークアウト・ホールディングス様は弊社の株主でもあるのですが、現在、同社とも連携しインフルエンサーと界隈を掛け合わせたマーケティングの可能性を模索しています。
他にもさまざまな活用可能性があると考えており、今後界隈マーケティングに関するPoCを数多く実施していきたいと考えています。界隈マーケティングに興味がありPoCをご一緒できる企業様はぜひお声がけいただければと思います。

――企業が界隈マーケティングを行う上で特に意識すべきことや、実践時の注意点などをお聞かせください。

小倉:アプローチの仕方には注意が必要です。例えば、「美容アカウント界隈」と重なる界隈に「懸賞アカウント界隈」があります。「懸賞アカウント界隈」とは「この企業アカウントのキャンペーンに申し込むとAmazonギフト券や商品サンプルがもらえる」などの情報が流通する界隈です。懸賞アカウントでは、コスメ商品のサンプル配布等のキャンペーンが行われることも多いため、美容アカウントと層が重なるケースがあります。
コスメ企業が情報を届けたいのは、ブランドのファンになってもらえそうな「美容アカウント界隈」の人たちであるはずですが、誤って「懸賞アカウント界隈」にアプローチしてしまうと、投資対効果に見合わない結果になってしまうことがあります。分析により、目的に的確に沿ったキャンペーンを打つなどの取り組みをする必要があります。
また、施策の実行においては何よりも、界隈へのリスペクトが大切です。界隈は「価値観のコミュニティ」ですので、界隈の方々が持つ文脈や大事にする言葉、考え方などをよく理解して接しないと、界隈にタダ乗りしようとする「ずるい企業」に見えてしまいます。一歩間違えば炎上することにもなるでしょう。逆に言えば、相性のいい界隈が見つかり、適切にコミュニケーションができれば、製品・サービスが早く広まることにつながります。データに基づき、理解のあるコミュニケーション設計が、界隈マーケティングには重要です。

界隈はマーケティングにおける「情報の源泉」

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「誰かとつながりたい」はどの時代も変わらない

――SNSの形も今後変わっていくことが考えられます。どのように対応していくお考えですか。

小倉:確かに、SNSはテキストから始まり、写真、動画で表現する時代に変化しています。今後はARなど、新たな形態も生まれるでしょう。しかしどんな時代も「誰かとつながりたい」「自分を誰かに知ってほしい」という人間の気持ちは変わらないと考えています。新しい時代には新しい世代の声を取り入れながら、弊社は変わり続けるSNSと関わり続けていきたいと思います。

1人ひとりの丁寧な理解からマーケティングははじまる

――最後に、これからコミュニティマーケティングや界隈マーケティングに取り組む企業へメッセージをいただけますか。

小倉:コミュニティマーケティングも界隈マーケティングも、1人ひとりのユーザー・生活者をしっかり理解するという意味で共通した取り組みだと考えています。既存・新規に関わらず顧客が何に悩んでいるのかを知らないことには、ヒット商品の開発や売上アップにはつながりません。コミュニティや界隈は、企業がマーケティングにおいて迷うことがあれば行きつくところ。そんな「情報の源泉」だと思っています。
多くの経営者の方々は、潜在的・顕在的にコミュニティの重要性・有益性を認識していらっしゃいます。ただ「何をもって成功か」も含め、コミュニティにおける成功事例が多く世の中に出回っているわけではないのが現状です。弊社は成功事例をもっと多く世の中に生み出し、コミュニティマーケティングや界隈マーケティング自体の認知度も、もっと高めていきます。
多くの経営者の方々は、潜在的・顕在的にコミュニティの重要性・有益性を認識していらっしゃいます。ただ「何をもって成功か」も含め、コミュニティにおける成功事例が多く世の中に出回っているわけではないのが現状です。弊社は成功事例をもっと多く世の中に生み出し、コミュニティマーケティングや界隈マーケティング自体の認知度も、もっと高めていきます。

インタビュイー紹介

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KEEN株式会社

代表取締役Founder&CEO
小倉 一葉さん

前編「お客様の"生の声"こそビジネスを伸ばす推進力になる コミュニティと界隈、ユーザー理解を深める新たなマーケティングアプローチ」はこちら