店舗スタッフが個人 SNS で集客し、給与にも還元
パルの OMO 戦略を支える「PASSION と LOVE」【前編】

アパレルブランド「GALLARDAGALANTE」「CIAOPANIC」やバッグブランド「russet」、雑貨を扱う「3COINS」など、50 以上のブランドを展開する株式会社パル。全国に 900 以上ある実店舗を中心にビジネスを成長させてきました。実店舗に加え、2016 年頃からは本格的に自社EC サイト「PAL CLOSET」に注力し、双方での売上拡大を成功。さらなる OMO 推進をめざしています。今回は同社専務執行役員・プロモーション推進部長の堀田覚氏に、パルの OMO戦略を深掘り。前編では、パルが強みとする SNS 施策について伺いました。

「PASSION と LOVE」を背景にしたマーケティング戦略

240222_PAL_007.jpg

「おせっかいなくらい熱い」接客に強い企業文化は OMO にも活きる

――堀田様は、パルの中で現在どのような業務やミッションを担っていらっしゃるのでしょうか。

堀田覚氏(以下、堀田):SNS、広告など、オンラインオフラインのプロモーションすべてが管掌範囲です。CRM、データ分析やクリエイティブ制作にも携わっています。EC では運営もカバーしており、ブランドの担当者と連動しながら全体の取りまとめまでを行っています。

――パルは現在、どのようなマーケティング戦略を立てているのでしょうか。

堀田:パルのコンセプトは「PASSION と LOVE」。スタッフ自身の趣味や好み、思いでできているブランドです。ブランドや EC サイトも、スタッフが消費者目線、クリエイター目線でお客様のニーズを考えて提案したものが多く、外部からディレクターやデザイナーを呼んで作るケースはほぼありません。
昨年コーポレートロゴを刷新しました。丸、三角、四角で多様性を、燃えるようなオレンジでパッションを表現しています。このロゴとスローガンが、一見バラバラなブランドの世界観をまとめる横串の役割を果たしています。
パルはもともと、現場の接客に強みをもつ会社です。接客とは要するに「個のパワー」。そのパワーをどれだけエンハンスできるかが戦略の中心にあります。格好良さを追求するよりも、ちょっとおせっかいなくらい、良いものを「良い」と熱くお客様にお伝えしていくのがパルのブランドなのです。したがって、お金をかけてブランドプロモーションを行い、イメージを形成していくというより、お客様との直接の接点でこそ、最大のパワーを出せることを大事にしています。
個を大事にしているからこそ、店舗の運営も、企画も、SNS も、基本的にはスタッフに任せています。その結果としてブランドがつくられ、支持されていくと考えているのです。

店舗と EC に壁をつくらない SNS 起点の OMO 戦略

――OMO の面では、どのように戦略を立てていらっしゃいますか。

堀田:まず、SNS を重要な起点としてとらえています。
エンドユーザーは、スマートフォンを見ている時間が非常に長いです。ライフスタイルの中では、時間、頻度ともに、リアル店舗への来店よりも圧倒的に多くオンライン上で過ごしています。したがって、オンラインでの接点が非常に重要です。
中でもお客様が一番見ているものの一つが SNS です。そこに起点を作り、まず知ってもらう、認識してもらうことがポイントです。SNS でパルを知った結果、お客様が EC や店舗に来てくれる可能性が高まるからです。
第 2 のステップは EC や店舗で生まれるトランザクションです。アプリをダウンロードしてもらったり Web 会員になってもらったりすれば、そこからデータでつながることができます。ID を活用してチャネルミックスの戦略が立てられます。
それぞれの販路で SNS から入り、濃い接点を持ったら次に、個別に響く戦略として、パーソナライズをして LTV を上げていく。その意味では実店舗と EC の区別はありません。店舗スタッ フが EC の情報を発信することも自然にできているのです。

「個」の発信こそが顧客に刺さる スタッフによる SNS 施策

240222_PAL_010.jpg

EC と店舗、両方を伸ばすためには SNS 活用だと気づいた

――パルでは、スタッフによる SNS、特に Instagram の発信に力を入れられています。そこに注力した理由をお教えください。

堀田:僕が入社した 2014 年当時は、ちょうど SNS が浸透してきたタイミングでした。例えばInstagram は画像中心の SNS なので、ファッションと相性が良いとも感じていました。僕が雑誌社で働いていたときにも、エディターやスタイリストがバイネームで発信したコンテンツは刺さるという感覚がありました。これからどんどん「個」の時代になることは間違いないと。そんな中で驚いたのは、会社の施策としてスタートさせる前から、若手の店舗スタッフが個人で発信を始めて、お客様を呼んでいたことです。スタッフの発信を見てその再現性の高さに気づき、このノウハウを広めていこうと考えました。
実は入社時に私には「EC 売上を伸ばす」という明確なミッションがありました。実店舗ビジネスでは一般的に、「EC が伸びると店舗のプレゼンスが下がる」というトレードオフがあると考えられています。しかし私は、社員の 9 割を占める店舗スタッフが乗ってこないような施策ならやらない方がいいと思ったのです。だから EC だけを強化する施策は選択しませんでした。そして、それぞれのスタッフが自分のセールスを上げるために、SNS を活用していこうと呼びかけ、会社としてインセンティブ設計を行いました。

――EC を伸ばすための施策というと、広告費の投入やツール導入などをしがちですが、そうではないと。

堀田:もともと当社にはコスト感覚を大切にしながら、1 つひとつ売上を上げていくという企業文化がありました。SNS 投稿は従業員のリソースを広げるだけででき、先行投資もかかりません。SNS 発信に伴うプライバシーやセキュリティ等のリスクはありましたが、最初に一定のルールを作り、「まずはやってみよう」と決めました。

総フォロワー1500 万人を実現した仕組み

――スタッフ SNS 施策はどのように展開・浸透されていったのでしょうか。

堀田:意欲あるスタッフが無理なく始めてコツコツ続けられるように、仕組みを作りました。 仕組みの 1 つ目は教育です。アカウント設計と投稿をマニュアル化しています。プロフィール画像の選び方やプロフィールの書き方、投稿頻度やリール、ストーリーの作り方についても目安を示しています。
数投稿上げた段階で「向いていないかも」と感じる人が多いですが、何がユーザーに刺さるかは分かりません。まずは 3 ヶ月、毎日コツコツやっているとデータ上何らかの変化が見えてきます。保存数や「いいね」が増えたらその理由を考え、前面に出すべき自分の特徴やセンスは何かを探っていきます。
データ分析は会社側が行い、スタッフに提示しています。アカウントを伸ばすための方法をこれまでの知見と併せて助言するのです。SNS 発信を始めた頃は私自身が全国を回り、講習会を開いて 1 人ひとりにアドバイスをしていました。
発信を始めてすぐ伸びる人はなかなかいません。2 年、3 年と継続し、5 年目で花開くスタッフもいます。継続のためにはポジティブなフォローが必要なのです。
仕組みとしてもう 1 つ重要なのがインセンティブです。
売上を計測し、投稿から EC・店舗での購入につながったスタッフには、賞与に報奨金を上乗せしています。フォロワー数によっても手当を支給します。
また、報酬面だけではなく、頑張りが評価される、見てもらえる実感もインセンティブと捉えています。初期の頃にトライしてくれたスタッフは全員フォローして、毎日「いいね」をし、良かった発信や伸びている投稿に着目したメッセージを送り続けました。
結果として、現在は店舗スタッフの約 3 分の 1、1700〜1800 人が SNS での発信をしており、総フォロワー数は 1500 万人にのぼります。1500 万人にリーチできる状態を広告でつくるのは結構大変ですが、SNS で実現できました。

全員にチャンスがあり、正当に評価されるからこそ意欲が高まる

――スタッフによる SNS 発信は今では他社にも広がっています。パルならではの強みは何でしょうか。

堀田:カリスマスタッフなど「選ばれし者」が発信する企業も多いですが、パルでは真逆の戦略をとっています。意欲のあるスタッフ全員が発信できて、成果に対する恩恵を受けられる。そうでないと評価制度も公平になりませんから。
これは個人的な想いですが、外見が良い人だけに発信させることはルッキズムの加速につながり、社内としても、世の中へのメッセージとしても全然ハッピーではありませんよね。「あの人みたいに変わりたい」と思うよりも、今の自分を肯定しながらファッションやライフスタイルを楽しめる方が、世の中の幸せの総量は増えると思っています。
「低身長」や「ぽっちゃり」、「肩が張っている」などのコンプレックスと格闘している人はたくさんいます。同じような悩みを持っているスタッフ自身が、自分らしく SNS 発信を行うことで、コンプレックスも前向きに変換できるかもしれませんし、大きな共感を得ることにもなります。
パルは、世の中に対して前向きになれるような新たな提案・発信ができる会社でありたいと考えています。

――インセンティブ設計はなぜ、どのように行ったのでしょうか。

堀田:SNS には個人の熱量が必要であることは言うまでもありませんが、モチベートするためには外部から背中を押すことも大切です。
経営共創基盤 CEO である冨山和彦さんの言葉に、「人間は、インセンティブと性格の奴隷である」というものがあります。もちろん無理はさせませんが、SNS 発信を促すにあたって、評価というインセンティブはすごく大事だと考えています。
会社には「働きに応じて平等」という言葉があり、パフォーマンスに応じて差をつけることが当たり前という文化です。そのため、多くの成果を挙げたスタッフに対しては、お小遣いレベルを超えるインパクトのある報奨金を出しています。貢献したスタッフにきちんと対価を払う仕組みがセットになっているから、自然と「店舗と SNS、両方やった方がお得」という考えが広がったのだと思います。

インタビュイー紹介

240222_PAL_038.jpg

株式会社パル 専務執行役員

プロモーション推進部部長
WEB事業推進室室長
コミュニケーションデザイン室室長
堀田覚さん