現場と経営、それぞれの立場で有効な打ち手
マーケ支援のプロが語る、BtoBマーケティングに必要な視点【後編】
- 2024.12.20
- 特集
「成果が出ない施策には一切取り組まない」と公言する株式会社WACUL。独自に収集した約40,000のサイトデータと20,000超の「成功事例・失敗事例」データを元に施策を研究する「WACUL Technology & Marketing Lab.」など、データに基づいた戦略立案に定評があります。 前編では、BtoBマーケティングを成功に導くポイントについて代表取締役の垣内勇威氏に伺いました。後編では、業界やフェーズに応じた施策やデジタルマーケティングの未来について語っていただきます。
戦略・打ち手の最適解は業界やフェーズで異なる
必要な打ち手は意外とシンプル
――具体例として、ソフトウェア業界におけるデジタルマーケティングの標準的なプロセスを紹介していただけますか。
垣内勇威氏(以下、垣内):まずは当社の勝ちパターンを踏襲していただきます。例えば、LPのファーストビューにCVボタンやフォームを設置し、顧客の操作をシンプルにする。これだけでCVRは2割、3割伸びたりします。
CVRは毎日変動するものですから、一定の限界まで達したら追加の工数をかけるのは非効率です。変動がほとんどない場合、時間と工数を別の施策へシフトするほうが効果的でしょう。
例えば、広告やSEO施策でリーチを広げ、新規訪問者を増やしたり、CV後の商談プロセスを強化し、成約率を高めたり。売上高を増やすレバー(打ち手)は他にもたくさんあるのです。
――アパレル企業の場合はどのような事例が考えられますか。
垣内:あくまでもデジタルマーケティングの視点で言うと、成功のポイントは、ECサイトを「顧客が実店舗へ足を運ぶきっかけとして」活用することです。D2Cでない限り、ECサイト売上をKPIとしても効率は改善しません。それよりも、顧客心理に沿った施策をしたほうがいいのです。
楽天やZOZOのような大規模ECプラットフォームがあるのにもかかわらず、わざわざブランドの自社ECサイトで購入されるお客様は、よっぽどそのブランドが好きな人ですよね。多くの場合、「ブランドの自社ECサイトでの会員登録が面倒」という顧客心理があります。
そのような方へは、ECで購入する導線をシンプルに提供することです。例えば、商品詳細ページで「Amazon決済可能」を明示するだけでも、会員登録なしでの購入を促進することができます。
――そうすることで、EC化率は上がりそうですね。
垣内:ただしアパレルについては、キーとなるのは店舗との連携です。店舗が喜ぶようにECサイトを使わなくてはいけない。つまり、無理にECサイトへの集客を図るのは悪手です。EC化率をKPIにしても、店舗やMD部門との衝突を招くだけです。
例えば、ECでの購入が店舗評価に反映される仕組みを導入すれば、店舗スタッフもEC利用に前向きになるでしょう。店舗がWeb上にスタイリングやコーディネート情報を提供し、ユーザーの関心を引いてサイトのエンゲージメントを向上する施策にも成功例があります。ECへの訪問が、店舗への来店や購買頻度の増加につながる好循環をめざすのです。
顧客が行っていた、ECサイトの意外な使い方
――貴社が支援したBtoBマーケティングの成功事例をお聞かせください。
垣内:プラザ様の事例では、自社ECの投資対効果が低いことが課題でした。しかしサイトの役割を分析したところ、大きな発見がありました。
多くのユーザー、特にファン層はアプリで新商品を頻繁にチェックし、興味のある商品を「スクリーンショット」で保存して、後日実店舗で購入していたのです。
この層は送料がかかるECでの購入を避ける傾向があります。ただし、在庫が限られる商品やWeb限定品に関しては、EC購入も選択肢に入っていました。
このことから、ECのKPIを売上だけに限定するのではなく、「スクリーンショット数」「店舗在庫確認数」「商品PV数」などの指標も追うべきと結論づけました。
ひたすら顧客行動を見る。有効な打ち手はそこから見つかってくるという感じですね。
データに基づく経営判断が今後の主流に
人材確保と経営層の判断力があってこそのマーケティング
――BtoBマーケティングの分野では今後、どのような変化や進化が予想されるでしょうか。
垣内:BtoBマーケティングが広まり、SFA入力率もどんどん上がっています。大企業を中心に「正しい」手法が標準化し、営業プロセスのデータ化が進展していますね。
人材の面でも課題が出てくるでしょう。スキルの高い営業やマーケターが可視化され、そうした人は離職率が上がる可能性があるので、いかに実務に強い人材を集め、離さない会社であり続けるかが重要になっています。
――企業としては、これからの時代に向けてどのように対応していくべきでしょうか。
垣内:これからマーケティングを始めるという企業は特にですが、営業担当者とのコミュニケーション強化が必須です。現場のニーズや顧客接点を把握し、マーケティング活動の基盤を固めることにつながります。
営業を動かさない限り、マーケティングが会社の成長に貢献することはできません。中小企業なら、社長と関係づくりをすること。そしてSFAなどのツールを導入する際には、まずその目的や意義を十分に理解し、導入して終わりではなくそのデータを意思決定に反映させることが重要です。
BtoBでは優れたプロダクトと営業力の確保が成功の鍵となります。人材を維持・確保する体制を整えたうえで、マーケティングを推進するべきです。トレンドに流されると誤った意思決定に陥るリスクがあります。特に大企業でマーケティングを進める際は、現場との認識のずれに注意し、密に社内のコミュニケーションを図る必要があるでしょう。
企業の言いたいことではなく、顧客が見たいものを発信する
――BtoBマーケティングの一環で、事例コンテンツをつくる企業が増えています。
垣内:事例コンテンツに加えて、自社の思想やプロダクトの意義を発信するコンテンツを作るべきではないかと私は考えています。
大事なのは、「自分たちが言いたいこと」ではなく「顧客が見たいもの」を発信すること。一方的な情報ではなく、ターゲットにとって価値があると感じる内容にフォーカスしましょう。
理想的なのは、経営者が情報発信を行うことです。そこをうまくお膳立てできるような人が真のマーケターと言えるかもしれませんね。
今後も、企業を一歩動かすコンサルティングを
本質の理解とリソースの見直しで、施策の無駄を取り除く
――貴社の今後の展望についてお話しください。
垣内:ご支援できる企業の数を増やし、世の中を変えていきたい。そのために知見のバリエーションをさらに蓄積し、優秀な人材を惹きつけていきます。また、既存のインサイドセールス支援に加え、フィールドセールスの改善にも領域を広げたいです。商品提案や企画支援など、マーケティングを超えた部分にも踏み込めればと考えています。HubSpotの設計で日本トップの企業にグループに加わっていただいたのは、そうした思いからです。
――BtoBマーケティングを始めようとしている企業へのアドバイスをお願いします。
垣内:経営層の方々は、マーケティングに必要なリソースを見直し、効率的に配分する必要があると考えています。例えば、集中的にマーケティングを行う必要なフェーズを過ぎた場合、担当者を他の業務に配置転換することも考えなくてはなりません。そうでないと、つい効果の薄い施策に手を広げて、逆にマーケティング効率を下げてしまいます。
とにかく「無駄なことはしない」という意識を持つこと。コントロールできるレバーが手元に多ければ多いほど、無駄な施策をしなくて済みます。業務の本質を理解し、余計な施策や流行に左右されず、必要なことに集中する。それが全てです。
――これからマーケティングに力を入れる企業はどのような意識で取り組むと良いでしょうか。
垣内:すべてに言えることですが、着手する前に前提や目的を明確にしましょう。マーケティングは施策が先行しがちなのですが、問いの立て方を間違えたら、絶対に結果は出ません。
例えば、上場のために売上10億円が必要なベンチャー企業があったとします。そのために、中小企業のアポイントメントを量産しても売上が上がらないとすれば、大企業5社との契約を目指したほうが効率的かもしれません。
コンサルティングの役割は、難解な分析よりも、企業を一歩動かすための一言を伝えること。そのために、これからも発信や知見の蓄積を行い、コンサルタントとしての信頼を高めていきたいですね。
インタビュイー紹介
株式会社WACUL
代表取締役
垣内勇威さん