20年前から取り組んだ、店舗&EC連携のデジマ戦略
青山商事が仕掛けるビジネスウェアにおけるOMOへのアプローチ【前編】

日本全国に「洋服の青山」「SUIT SQUARE」「THE SUIT COMPANY」など742店舗(2024年3月末時点) を展開する青山商事。2024年には創業60周年を迎え、「スーツに、もっと進化を。」を掲げてDX戦略を推進しています。今回はデジタルマーケティング黎明期から積極的に取り組み、成果を挙げてきた同社EC事業部副部長・細山清孝氏に、青山商事が行ってきた戦略的で大胆なOMO施策について伺いました。前編では、業界トップクラスの会員登録数を誇るスマートフォンアプリや、店舗で支持を集める独自システムについて語っていただきます。

後編「『欲しいアイテムが、青山なら見つかる』デジタル✕店舗で挑むアパレル新時代 青山商事が仕掛けるビジネスウェアにおけるOMOへのアプローチ」はこちら

現場経験を活かしつつ、デジマ黎明期からECに注力

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EC売上の向上のため、早期からOMOに着手した

――ご経歴と現職で担われている業務やミッションについてお話ください。

細山清孝氏(以下、細山):『洋服の青山』のEC運営が主な業務です。ECの売上を上げることがミッションではありますが、全社の持続的な成長のためにはECやデジタルを活用することが重要です。OMO戦略は必要不可欠なので、そのための情報収集と新サービスの選定にも注力しています。

――OMOに注力されているとのことですが、細山さんはキャリアの中でどのようにマーケティングに関わってきたのでしょうか。

細山:1994年に青山商事に入社して以来、『洋服の青山』の店長や『THE SUIT COMPANY』 のマネジャーなどで現場経験を積みました。2003年に『THE SUIT COMPANY』の本部部門へ異動となり、以来20年以上にわたって、ECやデジタルマーケティング全般に携わっています。
私がマーケティングに関わり始めたのは、デジタルマーケティングの黎明期です。もちろん当時は「デジタルマーケティング」という言葉はありませんし、そもそもECでものを買うという文化自体がまだ確立されていませんでした。
そんな中で最初に取り組んだのはドレスシャツの販売です。首周りと袖の長さでサイズが決まるドレスシャツは、ECで購入しやすいアイテムだったからです。一般的に当時のECでは購買ハードルが高いため、店舗より低価格な商品を販売するケースが多かったと思いますが、私たちは店舗で販売している商品より1ランク上のものをEC限定で販売しました。
なぜなら、Web上には時間や空間の制約がないため、文面やビジュアルで商品の良さやこだわりをしっかりとお客様に伝えられると考えたからです。結果として、高価格帯の商品をWebで展開したのは正解だったと思います。

チャレンジングな施策に果敢に取り組んできた『THE SUIT COMPANY』

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「自社ECからECモールへ」「カートシステムをフルスクラッチ開発」逆張りの思考で他社に先んじる

――貴社ではどのような戦略のもと、DXやマーケティング支援を行われてきたのでしょうか。

細山:戦略の根底にあるのは「お客様目線」です。デジタルマーケティングを活用したブランドとして、『THE SUIT COMPANY』を2000年にローンチしました。当時、青山商事の考え方は、新しい施策を『THE SUIT COMPANY』でチャレンジし、うまくいったら『洋服の青山』でも展開する形。ですから、『THE SUIT COMPANY』では様々な取り組みに挑戦しました。
まず着手したのは、ECのカートシステムです。当社独自のセット販売など、ASP(アプリケーションサービスプロバイダ)では実現しづらいものがあったため、最初から自社でフルスクラッチのシステムを構築しました。
当時、オンライン販売にあたっては、既存のECモールで販売を始めた後、自社ECを立ち上げるのがオーソドックスなやり方でしたが、当社は逆です。まず自社ECを始めて、よりお客様に知っていただくために、ECモールにも進出しました。

――『THE SUIT COMPANY』という場があったからこそ、思い切ったチャレンジができたということなのでしょうか。

細山: そうですね。デジタル化の一つと言えるかわかりませんが、当時、紙のメンバーズカードの代わりにCD-ROMを配っていたこともあります。店舗に設置してあるPCに、お客様が自分のCD-ROMを入れると、会員情報が表示されるものです。そんなサービスを他社に先駆けてやっていたので、デジタルとの親和性は高かったと思います。自社ECに対して抵抗が少なかったのも、そのためでしょうね。

――この20年で、店舗とECでの取り組みはどのように行ってきたのでしょうか。

細山:『THE SUIT COMPANY』では、デジタルマーケティング導入初期の頃から、会員ポイントの統合に取り組んだり、ショップブログを毎日更新するルールを作り、各店のSEO対策を強化したりしていました。
加えて、ECでは商品の特徴を詳しく説明できるという強みを大いに活用しました。元々『THE SUIT COMPANY』は「セルフ販売」を基本とし、販売員が積極的に声をかけないオペレーションを採用していたので、商品の価値はお客様から聞かれない限りなかなか伝えられませんでした。その分、ECでは生地やブランドの説明を丁寧に記載していました。

――『洋服の青山』のDX推進のために、組織体制を変更されたと聞いています。どのように変更され、それによって生まれた効果についてもお話ください。

細山:2020年4月にDXを推進する基幹組織として藤原尚也さん率いる「デジタルコミュニケーションヘッドオフィス」が新設され、EC事業部とデジタルマーケティングが傘下となりました。元々EC事業部は営業本部、デジタルマーケティング部は販促部に所属していたのですが、この2つが切り出され統合した形です。
現在の体制では、ECとデジタルマーケティングの連携も取りやすく、素早く判断して進められる良さがあります。一方、EC事業の初期段階では、ECと営業が密接だったからこそできた施策があるのも事実です。今の組織ではECと営業が離れているので、コミュニケーションの量をこれまで以上に増やす必要も感じています。

――店舗スタッフに対しては、ECへの理解を得るためにどのような説明をされたのでしょうか。

細山:店舗スタッフにはデータを示しながら「ECを利用しても、優良顧客は最終的に店舗に戻る」と伝え続けてきました。店舗で購入後ECを利用し、再び店舗に戻る顧客行動パターンがデータで確認されているのです。また、併用顧客(店舗とECを両方利用する顧客)はLTVが高い傾向があることもわかっています。

業界トップクラスのアプリ会員数 秘訣は「インセンティブ」と「ユーザーニーズの汲み取り」

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次の来店まで「洋服の青山」を忘れない仕組み

――OMOの推進においてアプリを強化されています。機能開発やデジタルマーケティングの施策などについてお聞かせください。

細山:『洋服の青山』アプリは2014年のリリース時 から、店舗で使用する会員証を兼ねていたため、店舗スタッフがアプリのダウンロードを推進し、店舗の顧客数に比例してアプリダウンロード数が増加していきます。
しかしせっかくアプリを入れていただいても、スーツ(ビジネスウェア)という商品の特性上、多くのお客様の来店頻度は1~2年に1回程度。カジュアルアパレルに比べると極めて低いのです。アプリをダウンロードしても使うことが少なく、結果的にアンインストールされてしまうのを防ぐため、いかに接点を維持するかを常に意識していました。
例えば、一日一回アプリを起動するたびにスタンプが貯まり、店舗とEC両方でお得に購入できるクーポンが発行される仕組みを導入しました。結果として、アプリの稼働率とクーポン利用率が大幅に向上。お客様とのつながりという意味では、アプリ内にお客様の趣味嗜好をもとに、スタッフからおすすめ商品などの情報を発信できるような機能も活用しています。

――『洋服の青山』アプリがアパレルブランドアプリの中でトップクラスの会員数になった要因は何だと考えていますか?

細山:第一に挙げられるのは、クーポンなどのインセンティブを細やかに提供していることです。「購入日から何日後にこの通知」などお客様の行動に基づいて細かいセグメンテーションを切ったプッシュ通知を実施しています。
第二に、ユーザーニーズを運用に反映させていることです。参考にしているのは、全国700店舗の店長から提出される週次報告書。お客様の声や店長からの要望事項が記載されたもので、全店舗分のデータが一括で本部に集まり、各部門が必ず対応することになっています。
NPSやアンケートも定期的に実施していますが、リアルタイム性や具体性では店舗からのフィードバックに軍配が上がりますね。

インタビュイー紹介

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青山商事株式会社

EC事業部 副部長
細山清孝さん

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