お客様の「生の声」こそビジネスを伸ばす推進力になる
コミュニティと界隈、ユーザー理解を深める新たなマーケティングアプローチ【前編】

マーケティングやプロダクト改善、新商品開発などにおいて「コミュニティ」の活用を行う企業が増えています。コミュニティ内のユーザーの活動をデータ化し、事業成長のためのコミュニティ運営をサポートするKEEN株式会社。前編では、代表取締役Founder&CEOの小倉 一葉氏に、長期的な信頼関係の構築に役立つというコミュニティの有用性について伺いました。

ユーザーの生の声が取得できる「コミュニティ」の運営

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共通の好みや関心軸を持つ人への効率的なアプローチが可能に

――最初に、貴社の事業概要について教えてください。

小倉一葉氏(以下、小倉):コミュニティとは、共通の好みや関心軸などの同じコンテキストを持っている方々が集まる場です。企業にとっては、お客様の生の声の取得や情報流通の場という価値があります。
2019年、ビジネス界でも「コミュニティ」は存在していたものの、コミュニティ運営を支える「コミュニティマネージャー」という役割の経験者もほぼいない状況の中で、コミュニティ支援事業としてKEEN株式会社(当時の社名:プリズムテック株式会社)を創業しました。
2022年からは新たにSaaSツールを開発し、企業が事業目的に沿ったコミュニティの立ち上げ~運営を行うためのシステムを現在までに2種類提供しています。「さまざまな『できない』理由から人々を解放し、世界を変えるムーブメントを作る」というビジョンのもと、コミュニティの力を信じて事業を行っている会社です。

製品の感想をユーザー自身が語るから信頼される

――小倉様はなぜ、コミュニティ領域で創業されたのでしょうか。

小倉:出身は秋田の小さな町で、小中学生の頃から人が好きで、趣味や関心軸で集まるコミュニティが大好きでした。また当時からMicrosoftのPowerPointやコミュニティサイトに触れる機会があり「田舎にいても、こんなに便利なものを使うことができるなんて!」と、インターネットやパソコンの素晴らしさを感じていました。「いずれは私も、世の中をより良く、より効率的にしていくためのサービスを作って社会に貢献したい」と思い、新卒でMicrosoftに入社した当初から、将来的な起業は描いていました。
Microsoft時代は事業開発を中心に行ってきましたが、Microsoft が展開していた開発者向けのコミュニティにも触れる機会がありました。そこで感じたのは、「実際に製品を使ってみた感想は、お客様が言うからこそ信頼される」ということです。どんなに良い製品やサービスであっても、自社の営業やマーケターがその魅力を伝えようとすると、単なるポジショントークに聞こえてしまうケースがあります。一方でお客様自身が語ることは、他のお客様も信頼しやすく、より魅力が伝わるのです。
当時から外資系企業ではクラウドサービスのユーザーコミュニティや、SaaSツールのユーザーコミュニティが既に存在しており、コミュニティを通して事業を伸ばしていた例もあったので、コミュニティの可能性を感じ、起業しました。

「コミュニティ」と「界隈」、2つの視点から企業活動を支える

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属人化されたノウハウや関係資本をデータ化

――現在展開されている2つのSaaS「KEEN Manager」「KEEN 界隈DB」についてご紹介いただけますか。

小倉:「KEEN Manager」は、企業のユーザーコミュニティに深いコミットメントや貢献をしてくれる「スター顧客」を発掘するためのデータ分析サービスです。コミュニティでの活動履歴を一元管理し、独自の顧客クラスターに分類することで、状況を可視化することができます。祖業のコミュニティ支援で培った知見をもとに開発しました。
システム開発に至ったのは、コミュニティマネージャーとして支援をしていて、自分にも一緒に働いているメンバーにも、出産というライフステージの変化が重なったことが要因です。どうしても仕事を続けられないタイミングになったときに、最も情報を持ち、お客様との関係も深いコミュニティマネージャーが抜けてしまうと、コミュニティ自体が回らなくなってしまう。そう気づいたときに、属人化されたノウハウや関係資本をデータ化しなければと考えたことが「KEEN Manager」開発のきっかけになりました。
「KEEN 界隈DB」は、2024年12月にリリースした新しいマーケティング支援サービスです。SNS上で、コミュニティよりももっと緩くつながるネットワークや言及されている「界隈」の発見、界隈の中心人物の把握のためのデータ分析とそこへのアプローチをご支援しています。
「界隈」は、「風呂キャンセル界隈」(入浴やシャワーを面倒に感じて避けたがる人たち)、「伊能忠敬界隈」(仕事や趣味で長時間歩くことを好む人たち)など、聞いたことがある方もいらっしゃるかと思います。自分の特性を表現し、自分の他にも同じ属性の人がいることを意味する文脈で使われ、2024年の流行語大賞にノミネートされました。それをいち早く察知し、ビジネスに役立てるべくサービス化したのが「KEEN 界隈DB」となります。

――貴社の事業は、企業にどのような利点をもたらすのでしょうか。

小倉:企業がコミュニティを運営する最大のメリットは、ユーザーの「生の声」にリーチできることです。人口減少社会の中で企業が売上を伸ばしていくためには、新規獲得だけでなく、LTVを向上させるという視点を持つことが必須となります。また現在、SNSをはじめとするWeb上の口コミは、コントロールすることができません。
そのような状況の中では、コミュニティという形が有効なのです。企業はコミュニティを通してユーザーに製品開発のエピソードを伝えたり、ユーザー同士で課題解決し合ったりする場を提供します。すると、ユーザーにとっては有用な情報流通の場となり、企業にとってはユーザーとの長期的な信頼関係を構築することができます。それがLTVの向上につながると考えています。

ビジネスにつなげる上で経営者、コミュニティマネージャーに求められること

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中長期的なコミットメントや年単位のKPI設計が求められる

――コミュニティマーケティングの意義について、どのようにお考えですか。

小倉:特に日本では、口コミや信頼する他者からの紹介で物を買う傾向が高くなっています。BtoBの購買プロセスの84%は紹介経由というデータ もあります。コミュニティ内では、オープンなWeb上では得られない情報が流通していることも多いため、従来型のマーケティング手法と比べてもコミュニティマーケティングの強みは大きいでしょう。
ユーザーコミュニティには、実際に商品・サービスを使っているユーザーの生の声が集まるだけでなく、ユースケースや事例などが蓄積され、ユーザー同士のネットワークの構築もできる、"宝の山"のような場所なのです。

――コミュニティの重要性が認識され普及・拡大する一方、それをビジネスに結びつけることには難しさがあるように思います。企業はどのような工夫をするべきでしょうか。

小倉:多くの企業のコミュニティは、はじめのうちは売上や数字的な成果につながらない場合も多々あります。しかし、そもそも中長期での関係構築を狙いとしているため、短期で「効果がない」と断じてしまってはコミュニティ施策を行う意味がありません。企業の経営層には、中長期的なコミットメントやそれに基づいた年単位のKPI設計が求められます。
またコミュニティマネージャー側も、上長や経営者に対して根拠のある数字や方向性の提示を行うことが重要です。とはいえ、実際にはユーザー側の事情もあり、KPIそのものが変化することもあります。作りたい世界のビジョンを共有しておくことが大切でしょう。
また、コミュニティに参加される方々の多くは、自社の従業員ではなく「お客様」です。当然ながら指揮命令権は発生しないので、「誰が、どんな動機を持ってコミュニティに関与しているか」「どのような場を作れば積極的に活動に参加してもらえるか」などを考えることは、とても重要です。
コミュニティメンバーの皆さんが「ユーザーである自分の発信する情報が誰かの役に立っている」と実感する事例が、次のユーザー創出につながります。コミュニティマネージャーは、リファラルの効果を最大化する設計をしながら、コミュニティ運営を行う必要があります。

「KEEN Manager」の活用で管理工数が94%削減

――現在、どのような企業がコミュニティマーケティングを進めていますか。

小倉:BtoB向けのSaaSを扱うIT業界などを筆頭に、THE MODEL的にビジネスを展開し、アジャイル的に改善を行い進化し続ける業態の企業はコミュニティマーケティングが向いていると思います。また、BtoCの業態も、ファンコミュニティを通して製品やサービスをユーザーとともに開発するような取り組みをされています。
他にも、特に製造業のお客様では、社内のエンゲージメントやカルチャーの変革、DXや働き方の改革などについて、コミュニティで草の根的な活動やヒアリングをしながら、変革を自分ごと化していくケースが見られます。
このように、ほぼ全業界にコミュニティマーケティングの考え方 は活用できると考えています。

――KEEN様がサポートされた企業様の事例を教えていただけますか。

小倉:ウイングアーク1st様 はコミュニティ立ち上げのタイミングからご支援をさせていただいている企業です。元々データドリブンな経営をされている会社様で、コミュニティの数値化・分析を細かく行いたいというニーズがありました。
そこで「KEEN Manager」を活用し、イベントの参加回数や、コミュニティポータルサイト上の投稿量などを計測し、エンゲージメントのアクションを1つひとつ数値化しています。
また、例えば「スター顧客を〇人にする」という形で、コミュニティ運営のKPI立案にも、「KEEN Manager」の指標をお役立ていただいています。それにより、「そのKPI達成のために、別の層の人に対して〇〇というアプローチをする」と具体的なプランニングができるようになり、会話の粒度が大きく変わりました。
数百人から始まったコミュニティ参加者は、現在4,500人を超えています。 人数が増加している一方で、ユーザーデータの管理工数は9割以上が削減され、効率化とコミュニティの盛り上がりを両立されています。

インタビュイー紹介

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KEEN株式会社

代表取締役Founder&CEO
小倉 一葉さん