循環型ビジネスの最前線 企業がリユースに取り組むべき理由とは?
ストラテジックインサイトが切り拓く二次流通の新たな可能性【前編】
- 2025.05.23
- 特集

世界的にサステナビリティへの関心が高まり、日本でもリユースやシェアリングエコノミーを支持する層が拡大しています。SDGsへの取り組みがブランドイメージを大きく左右する中、企業としてはどのような対策を講じるべきなのでしょうか。今回は、株式会社ストラテジックインサイト(以下、SII)、Director COO・藤本隆介氏とGeneral Manager/CO(Corporate Officer)・政久優実子氏に、企業のサステナビリティ推進を支える伴走型コンサルティングの知見を伺いました。前編では二次流通の現状や成功事例について語っていただきます。
後編「『売って終わり』から『つながり続ける』へ。持続可能な市場のつくりかた ストラテジックインサイトが切り拓く二次流通の新たな可能性」はこちら
企業成長に「循環型ビジネス」へのシフトが問われる時代 。顧客接点創出モデル「サーキュラーコマース」とは

リソースをつなぎ、事業を創る。二次流通の未来を切り拓くリーダーたち
――それぞれ自己紹介をお願いします。
藤本隆介氏(以下、藤本):15年に及ぶコンサルティング経験の中で、幅広い業界にて戦略構想を支援してきました。10年ほど前からオークネットの新規事業に関わり、不動産流通をはじめ、水産流通、余剰在庫流通など様々なテーマで意思決定を支援し、挑戦を後押しすることを大切にしてきました。近年は特に、サステナビリティ領域を中心に、企業間での事業共創のコーディネートに注力しています。オークネットの子会社として設立されたSIIでも、二次流通の高度化をテーマに5年間取り組んできましたが、近年では社会的意義への文脈もチャンスとして見えてきたと感じています。
政久優実子氏(以下、政久):私は20年以上にわたり、新規事業の企画・推進を経験してきました。特に注力してきたのはIT×事業開発です。人材業界での新規事業や子会社立ち上げに携わった後、タクシーアプリ、自動運転プロジェクトなどを経て、オークネットに入社し、同時にSIIへ兼務出向しました。現在はモビリティ&エネルギー領域や家電領域を中心とした二次流通事業の立ち上げ、オペレーション構築・運営を担当しています。システムエンジニアとしての経験や素地を活かし、リソースとリソースをつなぐことで、新しいサービスの創出に取り組んでいます。
リユースと事業創造に特化し、長期的に伴走するプロフェッショナルファーム
――SIIが誕生した背景と狙いを教えてください。
藤本:SIIは、オークネットグループに属する、リユース×事業創造に特化した国内唯一のプロフェッショナルファームです。ビジネスにおいて「サステナブル」の要素がより重視されていく時代の中で、オークネットの強みである二次流通事業をさらに発展させ、より社会的意義のある形へと進化させることが求められていました。そこで、リユースの専門知識と経営コンサルティングのノウハウを組み合わせ、新たな価値を創造する企業として誕生したのがSIIとなります。
サステナビリティと経済合理性の両立が、これからの「当たり前」になる

――SIIが推進しているサーキュラーコマースとは、どのような概念なのでしょうか。
政久:一次流通と二次流通を組み合わせて、顧客と継続的な関係を築くビジネスモデルのことです。企業のビジネスモデルを従来の一方通行から「循環型」に転換することで、サステナビリティと収益性を両立する仕組みと考えていただければと思います。
藤本:新品を売るだけでなく、レンタル、サブスク、買取、下取り、ユーザー同士の売買などを含めた「循環」の仕組みを構築することで、持続可能な市場が作れます。企業にとっては、今後拡大が予想される二次流通市場に戦略的に対応できるでしょう。顧客との関係性が強まるだけでなく、買取・下取りを起点とした購買喚起など、新品販売の強化も期待できます。
――昨今SDGsといった概念の浸透から、リユース市場への関心が高まっているかと思いますが、時代や社会の変化をどのように捉えていらっしゃいますか?
藤本:日本企業は、IRやCSR観点からのサステナビリティ対応にはまじめに取り組んできましたが、事業の中核まで循環型の発想を組み込めている例はまだまだ少ないのが現状です。一方で、「モノ売り」から「コト売り」へのシフトの重要性が言われて久しい中で、多くの企業にとって、製品とサービスを統合して新たな価値を生み出す「サービタイゼーション」が重要かつ難しいテーマになっています。
事業に循環型の発想を取り入れることで、顧客接点が柔軟かつ継続的になり、これがサービタイゼーションの土台を成すポテンシャルになると考えています。
政久:消費者も、若年層を中心に、新品や所有することに対するこだわりが薄れています。「資源をみんなでシェアし合おう」といった文化が作られ、オフィス家具や自転車、カーシェアなどを中心にシェアリングエコノミーが一般的になってきたこともその一因でしょう。
シェアリングが成立するためには、二次流通の仕組みが不可欠です。従前、二次流通単体の再販収益だけでビジネスを成り立たせることは困難と考え、二次流通に消極的な企業も多かったと思います。しかし二次流通を行うことにより、一次流通の活性化、顧客コミュニケーション活性化などにつながる施策を組み込むことで、企業評価の向上を導けるような仕組みができれば、積極的に企業が取り組む意義になるでしょう。そのような仕組みをつくることが、SIIのミッションの一つだと考えています。
二次流通の課題を突き詰めて見えてきた「LTV向上」への秘策

リユースを正しく活用すれば、精度の高いマーケティングにつながる
――リユース活用において、どのようなマーケティング戦略を取られていますか。
政久:代表的なのは、新商品購入時の下取り制度導入です。他にも実際の事業を実現する中で、サステナビリティ文脈などにより従来の顧客属性以外のデータが取得できるため、新しいマーケティングアプローチの提案が可能になってきました。ポイント付与などのインセンティブを活用して、継続購買やリピート率向上につなげる点では、ECサイトに使われる戦略と共通しています。
――二次流通市場への参入を検討している企業が抱えている課題はどのようなものですか。
藤本:二次流通領域には、固有の法規制や経済性のメカニズムがあり、かつそれは商材によって大きく変わってきます。また、回収した製品を自社ですべて再販することが難しい場合も多く、出口設計にも経験に基づく専門性が必要です。そのため二次流通領域に土地勘がない企業は、参入への大きな壁を感じるでしょう。
政久:二次流通では単価が安く、収益が上がらないのではないかという懸念を感じている企業が多いですね。二次流通品の中には、「認定中古品」など、企業が介在するからこそ提供できる価値もあるはずだと私たちは考えています。その企業が求めていることや持っているアセットを踏まえて、企業イメージやマーケット戦略、顧客接点を増やすトリガーの発見など、多様な側面からナビゲーションさせていただくのが私たちの役目です。
SII設立時から、サーキュラーコマースや二次流通のコンセプトに共感し、ともに事業のあり方を模索してきた結果、顧客ロイヤリティ向上につながった代表例が、株式会社千趣会の展開する不要品の宅配買取サービス『kimawari』(キマワリ)です。
サーキュラーコマースのコンセプトに共感して生まれた『kimawari』
――『kimawari』が生まれた背景、得られた成果や知見についてお聞かせください。
藤本:昨今、フリマアプリや買い取りサービスが普及していますが、これらは出品者の負担が大きく、不要品は家で保管するか捨てるか、手間をかけて出品して売るという選択肢しかありませんでした。消費者は、より手軽なサービスを望んでいたと考えています。
消費者と社会の未来に役立つ新しいつながり方を模索していた千趣会と共同で開発したのが『kimawari』です。SIIとオークネットがもつ二次流通のノウハウを活かした事業としてスタートしました。
『kimawari』は、不要になった服やアイテムを段ボールに詰めて送るだけで、そのアイテムが二次流通市場に出回り、それを必要とする「次の誰か」につなぐことができるという仕組みです。まだ着られるアイテムは海外・国内市場でリユースし、リユースが難しいアイテムはリサイクルされます。実際に9割以上が買取成立しています。
年間申込件数は10万件以上にのぼり、約3人に1人がリピーターとなっています。中には驚くほど丁寧に梱包し、次のユーザーを思ってお手紙を添えてくださる方もいます。「高く売れるかどうか」のみを気にする他の買い取りサービスとは全く異なる世界観が生まれているのです。
また、ユーザーのニーズに応えたサービスを提供でき、買取金額をポイントで付与することによってベルメゾンサイト内での買い回りを促したことで、休眠会員のアクティベートにつながったというメリットもあります。
政久:取り組みの中で、ECサイトのリピート率向上には、ターゲット層の明確な理解が重要であることがわかってきました。特に子育て層にとって、子ども服の買い替え需要に対応できる循環型の仕組みは魅力的に映ります。それは獲得単価やLTVといった指標にもダイレクトに現れました。
『kimawari』での経験を通して、汎用的な二次流通支援にとどまらず、企業ごとのビジネスモデル構築に特化するのが勝ちパターンだと見えてきました。この知見を活かして生まれたのが、現在の主力事業である『Selloop(セループ)』です。(後編に続く)
インタビュイー紹介

株式会社ストラテジックインサイト
Director COO
藤本隆介さん

株式会社ストラテジックインサイト
General Manager/CO
政久優実子さん
後編「『売って終わり』から『つながり続ける』へ。持続可能な市場のつくりかた ストラテジックインサイトが切り拓く二次流通の新たな可能性」はこちら