「売って終わり」から「つながり続ける」へ。持続可能な市場のつくりかた
ストラテジックインサイトが切り拓く二次流通の新たな可能性【後編】

情報流通支援サービスを創出してきたオークネットと独立系経営戦略コンサルティングファーム・コーポレイトディレクションのジョイントベンチャーとして生まれた株式会社ストラテジックインサイト(以下、SII)。「二次流通×サステナビリティ」という独自の視点を打ち出し、注目されています。前編では、同社 Director COO・藤本隆介氏、General Manager/ CO(Corporate Officer)・政久優実子氏に、サステナブルビジネスやサーキュラーコマースの最前線について伺いました。後編では、数々の企業との取り組みで得た知見をもとに生まれたリユース市場参入支援プラットフォーム『Selloop(セループ)』や、今後の展望について語っていただきます。

循環型ビジネスの創出を一気通貫で支援

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多様な顧客とのつながりを生み出す『Selloop』

――主力事業である『Selloop』はどのような目的で、どのような課題を解決することを目指したサービスなのでしょうか。

藤本:企業が二次流通市場に参入し、収益化を図るためのプラットフォームです。市場調査から流通戦略の立案、買取・下取りのシステム開発まで一貫して手掛け、最適な販売チャネルを選び、品質チェックと価格設定を行うことで、スムーズな販売をサポートしています。BPO、マーケティング効果の可視化などもスコープに入っており、パートナー企業のビジネス特性に合わせた導入支援が可能となります。
さらに、二次流通を取り入れることで可能になる、レンタルやサブスクなどのサービス形態の構築まで企画、伴走支援をします。企業と顧客の多様な接点を活かし、持続可能なリユースビジネスの発展を後押しするサービスです。

――『Selloop』を通して、事業者側と顧客側のそれぞれでどのようなメリットが得られるのでしょうか?

政久:事業者にとっては、下取り、買取などを導入することで顧客との関係性を複線化することができます。二次流通単体では収益化が難しいケースにおいても、マーケティング効果までトータルで見てポジティブな取り組みにしていくのが『Selloop』の大きな特徴です。このことにより、サステナビリティと経済性の両立、並びに企業ブランディングへの寄与も狙っていきます。
また、ブランドとしての"公式リユースルート"を整備することによって、ブランド価値を守り、転売市場の管理強化にもつながります。
顧客にとっては、手軽な下取り・買取サービスを利用できる点が魅力です。公式のリユース市場を活用することで、不当に安く買い取られるリスクが減り、安心して柔軟な買い替えができます。

二次流通の活用促進が、ユーザー同士の交流や新作の売上にもつながる

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――『Selloop』の具体的な事例をお聞かせください。

藤本:リユース市場への参入を考える際、「顧客エンゲージメント向上」と「経済合理性」の2つの視点があると思っています。
顧客エンゲージメント向上に重心を置いた提案事例はいくつか挙げられます。あるキャンプ用品メーカーでは、その企業のキャンプ用品ユーザーが集まるコミュニティを構想中です。これまでは、商品の購入金額に応じた特典を提供するロイヤリティプログラムを運用してきました。しかし、キャンプ用品メーカーとしての本来の目的は「キャンプを楽しむ人を増やすこと」。お金を多く払った人だけが優遇される仕組みでは、初心者が入りにくく、ユーザー同士の口コミも広がりづらくなります。
そこで、例えば「キャンプ場で他の人のテント設営を手伝うとポイントが付与される」といった、コミュニティへの貢献を評価する仕組みを作りたいと考えています。「不要になったキャンプ用品を譲るとポイントが付与される」ようにして、公式のリユースサイトとしても運営することで、安全性も確保されます。結果としてユーザー同士の交流が活発になり、ブランドへの愛着が高まると考えているのです。キャンプ用品は基本的に長持ちしますから、循環することで、サステナブルな市場の形成も狙うことができるでしょう。

――「経済合理性」の追求に重心を置いた提案事例にはどのようなものがありますか。

藤本:ゲーム業界において、次のような取り組みを提案しています。通常、新しいゲーム機が発売されると旧機種が不要になりますが、下取りがなければ買い替えが進みにくい現状があります。加えて、中古市場が無秩序に広がるとブランド価値も損なわれてしまうリスクもあるでしょう。
そこで視点を海外に広げてみました。海外のある国では、そもそもゲーム機の普及が進んでいないため、ゲームソフトの購入やプレイヤーが増えにくいという課題があります。そこで、メーカーが公式に国内ユーザーに向けた旧機種の下取り・買取を実施し、下取りポイントを付与します。さらに、その旧機種を適正なルートで海外に流通させます。そうすることで、国内ユーザーはポイントを新機種や新ソフトの購入資金に充てることができ、機種が流通することで海外ユーザーも増えていくことが期待できる仕組みです。メーカーもブランド価値を維持しながら市場を広げることができると考えています。

政久:「日本国内だけで循環させる」という考えが先行しがちですが、視野を広げることでより効果的なリユースの仕組みを構築できます。親会社であるオークネットが持つ海外の買い手ネットワークに流通させれば、企業ごとの課題に応じた最適なソリューションの提供が可能になるのです。

リユースの先に見据える「循環型社会」とは

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リユースを前提としたValue-Driven Circulationの推進

――今後の展望をお聞かせください。リユース事業はどのように発展していくとお考えでしょうか。

藤本:私たちは、「Value-Driven Circulation(VDC)」という考え方を掲げ、従来の「売り切り型」「大量生産して安く届ける」に代わる、新しいパラダイムを創っていくことをビジョンに据えています。現状、サーキュラーエコノミーに関する議論の大部分はリサイクルに関するものが占めています。リサイクルももちろん大切なのですが、企業活動としてはリサイクル対応について、資本市場からの圧力や、取引先からの要請、法制度の変更などへの対応という側面が強く、将来の事業リスクと対応コストとの間で、どう折り合いをつけていくか、というトレードオフの問題になります。
しかし循環型の発想を取り入れることで、世の中に対して新しい価値提案ができ、商品・サービスをより高付加価値化していく余地が様々なところにあると考えています。適切な二次流通の確立によって、高品質な製品を適正な価格で提供する仕組みに移行する。これが目指すところです。

政久:二次流通が拡大するほど、適正価格の設定とその信頼性が重要になってきます。ユーザーは、提示された価格が適正なのか判断が難しいことが多いので、メーカーが公式に適正価格を管理することが必要です。ブランドが関与することで、製品の価値が維持されるだけでなく、ユーザーにとっても安心して取引できる環境が生まれると考えています。
例えば車業界では「残価設定クレジット(残クレ)」のように、購入時点からリセールを想定した仕組みが浸透しています。家電業界でも同様に、製品設計の段階からリユースを前提にした考え方を取り入れることで、新たな市場価値を生み出せるはずです。今は「安いものをその場で買う」消費者行動が主流です。しかし、長期的にユーザーとの関係を築くには、購入時点からリユースを見据えた仕組みが必要になります。ユーザーの心理を捉えた関係性の作り方やロジックを押さえた施策を『Selloop』として打ち出していきたいですね。

――リユースを前提とした仕組みを実現するためには、どのような市場変革が求められるのでしょうか。

藤本:業界全体での意識改革が不可欠です。特に家電業界では、大量生産・低価格モデルの限界を感じ、付加価値の向上に取り組む動きが出てきていますが、社内ではまだ少数派の意見である場合が多いでしょう。そんな中でも、私たちは循環型ビジネスというビジョンを共有できる企業と連携しながら、新たなリユースモデルを確立していきたいと考えています。

政久:実現に向けては、システムの使いやすさも重要な要素です。オンラインとオフラインの両方に対応し、多様なユーザーが使いやすいインターフェースでプラットフォームを提供することで、リユース市場への参加を促進できると考えています。高齢者層など、デジタル環境に馴染みのない人々にも利用しやすいよう、工夫していきたいですね。

藤本:循環を前提にした高付加価値なモノづくりは、設計の複雑性が増していきますが、日本は複雑なモノづくりの領域に強みがあります。最終的には、日本からこの循環型ものづくりのモデルを発信し、グローバル市場でも競争力を持つ形に進化させることを目指しています。

インタビュイー紹介

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株式会社ストラテジックインサイト

Director COO
藤本隆介さん

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株式会社ストラテジックインサイト

General Manager/CO
政久優実子さん

前編「循環型ビジネスの最前線企業がリユースに取り組むべき理由とは?ストラテジックインサイトが切り拓く二次流通の新たな可能性」はこちら