売上200億円・EC比率14.6%を叩き出すOMO戦略
ゴールドウインが描くEC戦略とオムニチャネルの実践 【後編】
- 2026.07.22
- 特集
株式会社ゴールドウイン リテール本部エキスパートの都地大基氏と、スマイルエックス合同会社CEO/日本オムニチャネル協会フェローの大西理氏が、同社のOMO戦略について語り合う対談。顧客の行動を引き出すEC戦略を掘り下げた前編に続き、後編では、ECと店舗の壁を乗り越える秘策から直営店の接客をオンラインで再現する取り組み、購買と体験の一体化へ向けた展望までを深掘りします。
前編「商品スペックではなく、購入の先にある『体験』を提案するゴールドウインが描くEC戦略とオムニチャネルの実践」はこちら
「組織の対立」を融和させた決断
在庫の一元化に立ちはだかった「壁」
大西:オムニチャネル戦略についても聞かせてください。実店舗とECの在庫流動化を推進されているそうですが、実現にあたり社内での摩擦はありましたか。
都地:弊社の販売部門は、それぞれの部門が発注した商材で販売計画を組まれているので、EC側に流動化させることに対しては抵抗がありました。
大西:現場の心理的な壁を、どのようにして乗り越えていかれたのですか。
都地:2020年のシステム刷新時に、1年間かけて「オムニ会議(のちOMO会議に改称)」の開催を続けました。ECと直営店の関係者が集まり、議論を重ねる機会です。その際に決めたルールが、「実店舗から販売された各種オムニサービスの売上は、すべて『実店舗の売上』として計上する」ということでした。
大西:店舗の現場にとって、それは大きなインセンティブになりますね。
都地:はい。オムニチャネルの勝ち筋は、各店舗に在庫を分散させるのではなく、ECの共通在庫に最大限集約させることだと考えています。そのためには、店頭のスタッフに「EC在庫は自店舗の引き出しを広げてくれるもの」と感じてもらう必要がありました。現在は、店舗の売上にEC在庫が使われるケースが増え続けています。
大西:ECだけが得をする構造ではなく、店舗がECを味方にできるというのは、会社全体にとっても健全な考え方ですね。
直営店の「間」を再現するオンライン接客
FAQページへの誘導をなくし、画面内完結のチャットで疑問を解決
大西:オンライン接客についても教えてください。どのような取り組みを行っていますか。
都地:主に2種類あります。1つ目はカスタマーサービス領域で、購入前の疑問がすぐに解決できる仕組みをつくることです。これまでECでは、返品など購入後の手続きが多い傾向にありました。しかし満足度を引き上げるには、購入前の疑問解決こそ重要です。FAQページから該当ページへ誘導するのではなく、閲覧している画面内でチャットできる仕組みを目指しています。
大西:お客さまからすれば「この疑問はあちらの窓口で聞いてください」となると、たらい回しにされているような印象を持ちかねません。だからこそ、リアル店舗で1人のスタッフが接客から会計まで担当するように、Webにおいても同一画面内で疑問が解消される設計には大きな価値があります。画面を遷移することなく安心して購買できる体験は、まさに店舗ならではの心地よい「間(ま)」を再現していて、非常に魅力的ですね。
「実店舗ならどう接する?」ブランド価値を高める接客をオンラインでも
都地:2つ目はプロモーション領域です。お客さまの好きなブランドやアクティビティの属性に合わせて配信を細かく分け、悩みを解決するためのナビゲーションを設定し、テストを繰り返しながらブラッシュアップを続けています。
大西:リアル店舗でも、店頭のディスプレイや商品の配置をブラッシュアップすることがあります。こだわりとしては同じかもしれませんね。
都地:おっしゃる通り、どちらも大切な「場」です。そして、お客さまの雰囲気に合わせた接客の「間」も大事になってきます。リアルな接客があったからこそ、ここまでブランドが育ってきたと思っているので、オンラインでの体験設計も、あくまで店舗の接客をベースに考えています。
大西:オンラインで最も把握するのが難しいのが、お客さまの熱量や気持ちの部分です。データから推測しながらPDCAを回していくオンライン施策に、実店舗の知見を活かしているのですね。
仕事と遊びの境目をつくらない社内カルチャー
役員自ら1ヶ月休んで海外の山へ。感性を育む「バカンス休暇制度」
大西:私は以前から、ゴールドウインの直営店は接客が非常に素晴らしいなと感じています。スタッフとの会話も楽しいので、入店すると、つい長居しがちになります。店舗スタッフの育成ではどのような工夫があるのでしょうか。
都地:ブランドや商品の知識は研修で覚えられますが、それだけではお客さまに寄り添えません。お客さまは「今度◯◯山に登りたいと思っているのですが」といったリアルな相談を持ち込まれます。スタッフ自身が山に詳しかったり、普段からランニングを好んでいたりするからこそ、お客さまのご要望に合わせた具体的なアドバイスができると考えています。
THE NORTH FACEに「NEVER STOP EXPLORING(あくなき探究心)」というタグラインがあります。このように、何事も挑戦することや仕事と遊びの境をつくらないことは、社内文化として大切にしていることです。
直営店部門では、スタッフ自身がフィールド体験できるよう、「バカンス休暇制度」によって、長期休暇を取れる環境を用意しています。当社の役員も、1ヶ月間有給休暇を取って海外の山に行ったりした事例もあるように、社員一人ひとりが多くの体験を得る機会を増やしてもらうことが社内で推奨されています。
「もったいなくて着せられない」をなくし、子どもが思い切り遊べる服へ
大西:ゴールドウインのパーパスは「人を挑戦に導き、人と自然の可能性をひろげる」。これを具現化した独自の取り組みはありますか。
都地:サステナビリティの施策に力を入れています。スポーツの起源は「PLAY(遊ぶ)」。私たち人間は地球というフィールドで"遊ぶ"存在ですから、地球が存続しなければ、当然私たちのビジネスも継続できません。
そこで、リペアサービスやリセールアイテムの販売、環境負荷低減素材の使用などに取り組んでいます。とりわけ力を入れているのが子ども服の領域で、「グリーンバトン(GREEN BATON)」という循環型のリセールレーベルを展開しています。サイズアウトした子ども服を店舗で買い取り、リペアやアップサイクルを施して再販売する仕組みです。
さらに、THE NORTH FACEなどの子ども向け商品は無料で修理対応しています。単価が高い商品が多いため、「キャンプで破れたら困るからアウトドアには着せない」という話をよく耳にします。それでは本末転倒ですよね。子どもたちにはアウトドアの楽しさを全身で体験してほしい。だからこそ「何度でも修理するので、ぜひ使わせてあげてください」というメッセージを込め、無料で対応しています。
通期EC売上200億円、EC化率14.6%を支える「通年ギフト需要」
大西:ECの売上比率など、数字の面ではいかがでしょうか。
都地:マーケットプレイスを含む通期EC売上は約200億円で、会社全体のEC比率は14.6%となっています。
面白かったのが、自社ECのデータ分析から、ギフト需要において「季節が逆転する」インサイトが得られたことです。夏に生まれた赤ちゃんへ「今年の冬に使ってね」という思いを込めて、冬物のブランケットを贈るという需要が存在していたのです。このようなニーズに対しては、店舗では対応が難しくても、直営のオンラインストアなら確実に対応できます。
現在、ギフトは自社EC全体の約10%を占めるまでに成長しています。さらに今、UXの刷新も進めています。ギフト需要のお客さまは、贈る相手に喜んでいただけるものを求めてサイトに来られるので、商品を選ぶ前の段階から、最終的にどのような状態で相手の手元に届くのかといった「ゴール」が先に見える導線にし、公式ならではの安心感を強化したいと考えています。
共感型OMOで、唯一無二の体験価値を提供
創造性を育む体験型プラットフォームをつくる
大西:今後の展望をお聞かせください。ゴールドウインが目指すOMOとは、どのような形でしょうか。
都地:ゴールドウインらしいキーワードとして社内で最近よく出ている言葉が「共感型OMO」です。店舗やECなどの様々なチャネルを通じて、お客さまのライフスタイルや次なるチャレンジ・価値観などに対して、私たち自身がまず深く共感すること。そこから、双方向的な提案ができるような仕組みをつくっていけたらと思います。
2026年4月1日にはオンラインコミュニティ「Goldwin Circle」を公開しました。モノ(商品)だけでなく、コト(体験)や環境をつくり、提供していきます。
大西:創業の地・富山にものすごい施設もつくっていらっしゃいますよね。
都地:2027年初夏、富山県南砺市に「Play Earth Park Naturing Forest」の開業を予定しています。ヴィラやキャンプ場を備え、ゴールドウインのプロジェクト「Play Earth」を体現するネイチャーパークです。
また、2025年に旅行会社「アルパインツアーサービス」をグループ会社化したことで、契約アスリートと行く本格的な海外山岳ツアーなどのアクティビティ・ツアー事業を自社で組めるようになりました。将来的には、「体験一体型プラットフォーム」の提供も目指しています。
デジタルは手段、人を動かすのは「人の感情」
大西:最後に、ECやデジタルマーケティングの現場で奮闘されているビジネスパーソンに向けてメッセージをお願いします。
都地:実店舗のスタッフも、ECのセールスも、お客さまから見れば同じブランドの一部です。だから私たちは、主語を常に「ブランドとして」「Goldwin Online Storeとして」と置いています。全員が「こういう価値を届けたいんだ」という共通の思いを胸にお客さまと向き合う。ビジネス効果から考えればジレンマだらけの毎日ではありますが、このこだわりは大切に、今後も挑戦を続けていきたいと思っています。
インタビュイー紹介
株式会社ゴールドウイン
リテール本部 エキスパート
都地 大基さん
スマイルエックス合同会社CEO
日本オムニチャネル協会フェロー
大西 理さん
前編「商品スペックではなく、購入の先にある『体験』を提案するゴールドウインが描くEC戦略とオムニチャネルの実践」はこちら