3つのポイントを軸に施策を展開!
三陽商会が仕掛けるオンラインストアリニューアルのその意図とOMO戦略【前編】

昨今、アパレル業界においては、実店舗展開だけでなくオンラインや各チャネルを絡めた取り組みが必須となっています。しかし、どのように取り組むとCXや顧客満足度向上につながるのか、手探り状態の企業も多いのも実情です。
2023年9月、株式会社三陽商会はこれまでのブランドサイトとECサイトを統合した「SANYO ONLINE STORE」をオープン。新機能も搭載することで、OMO推進とCX向上を目指しています。今回は、「SANYO ONLINE STORE」立ち上げプロジェクトの旗振り役となった同社ウェブビジネス部の斉藤氏、小川氏に、プロジェクトの背景やサイトローンチ後の反響などについて伺いました。

ECサイトの統合・リニューアルを実施し、OMO戦略のベースに

_DSC3694.jpg

プラットフォームをリプレイスし、新たに「SANYO ONLINE STORE」オープン

――ブランドサイトとECサイトを統合した「SANYO ONLINE STORE」を立ち上げられたきっかけについてお話しください。

斉藤裕介氏(以下、斉藤):当社が自社ECをスタートしたのは2008年で、2015年に一度、EC基盤のリプレイスを行い「SANYO iStore(サンヨー・アイストア)」という自社モールとして運営してきました。そこから一定期間を経る中で、昨今のECにおけるトレンドやサービスに合わせ、ある程度将来を見据えたプラットフォームの見直しが必要な時期となっていました。また、当社が展開するブランドごとに独立したECサイトが複数点在、運営体制やお客様とのタッチポイントも複雑化していたため、それらを、これを機に統合しようというのが、大きなきっかけでした。

――今回のプロジェクトはどのような体制で進められたのでしょうか。

斉藤:会社としては「EC基盤リプレイスプロジェクト」という名称で、ウェブビジネス部を中心に、私がプロジェクトマネージャー、小川がプロジェクトリーダーとなり、システム部、マーケティング・コミュニケーション部、経理財務部本部、物流部など、部を横断した形での全社プロジェクトとして進めました。
また、リプレイスに合わせて各ブランド事業部に属していたECの運営担当者は、ウェブビジネス部に集約され、今は基本的に全てのEC運営をウェブビジネス部で統括している形です。

「SANYO ONLINE STORE」の3つのポイント

――「SANYO ONLINE STORE」に統合・リニューアルするにあたり、意図や狙いとしたことは何だったのでしょうか。

斉藤:大きく3つの狙いがあります。1つ目は、ユーザーとのタッチポイントを集約し、より強化していくこと。
ブランドごとにECサイトが独立していることは、ブランディング観点で見れば利点です。しかし、どのブランドもお客様とのコミュニケーションは三陽商会の会員システム「SANYO MEMBERSHIP」をベースに行ってきたこともあり、例えば一人のお客様に対して、時には複数のブランドから異なる方法、内容でアプローチをかけてしまう等、様々な弊害が生じていました。
また、それぞれのサイト毎にサービスや機能が異なり、お客様にとってサイトによって受けられるサービスの違いやそれぞれの特徴がなかなかわかりづらかったという点もあったと思います。そのECサイトを統合することにより、必然的にお客様とのタッチポイントが集約され、最適なタイミングで必要な情報を発信できるようになります。そして、従来は1つのサイトで完結されていたお買い物が、共通のサービス・機能を持つモールの中でブランド間の買い回りがしやすくなると考えました。
2つ目が、全社的な戦略であるセールに頼らないプロパーの売上向上です。EC、実店舗ともに、プロパーの販売時期にいかに商品を売っていくかが販売戦略の大きなテーマとなっています。これまでのECサイトは1つのページ内にプロパー商品もセール商品も混在させていたため、どうしても価格で判断されてセール品を購入するお客様が多くなり、我々が伝えたいプロパー商品の魅力がなかなか伝わりませんでした。そのためECでは、必然的にセールの売上比率が非常に高くなっていることが課題でした。
そこでリニューアルを機に、セール・アウトレット商品については独自のアウトレットページに切り出して集約、メインサイト上は基本的にプロパー価格での販売という見え方に変更。さらに、プロパー商品の魅力をより伝えるための特集ページを増築しました。
3つ目は、ECと実店舗を連動させたOMO戦略のベースとすることです。ECと実店舗という2つの大きなチャネルで、お客様が買い回りする、いわゆるクロスユース率を高めていきたいということが大きな目的としてあります。

モールTOP_1208.jpg

ECから店舗、店舗からECへ。OMO施策を実施

――社内では以前から、積極的にOMOをやっていこうという機運があったのでしょうか。

斉藤:過去に、「オムニチャネル」や「O2O」などのキーワードは出ていたものの、明確に意識して具体的な施策に落としていくところまではなかなか進められていませんでした。それでも、ECから実店舗への送客や、実店舗からECを利用してもらう仕組みづくりはある程度行ってきました。
例えば、EC上で店舗の在庫を取り置き、店舗へ送客する仕組みや、店舗でお客様の欲しい商品の在庫がない場合に、ECの在庫を見て、EC倉庫から直接お客様に発送できる仕組みは整えています。また、店舗の販売スタッフが購入を迷われているお客様に対して、「商品紹介カード」を印刷、お渡しすることで、後からでもQRコードを読み込んでECから買えるというサービスも実装しています。ただし、これらのサービスの認知度や利用率はまだまだ低く、本当の意味でのOMOは進んでいないというのが実情です。
一方で、OMO推進の上では店頭スタッフの協力は不可欠です。そのために直近ではSTAFF START(スタッフスタート)という、店頭スタッフのコーディネートをECサイトで掲載し、スタッフ経由での売上を上げていくとともに、その売上を"見える化"することでOMOの重要性やスタッフの意識向上にも繋げていくという取り組みも積極的に行っています。

新機能・新サービスを搭載し、CX向上を図る

_DSC3854.jpg

EC側の課題解決につながる"店舗試着"という発想

――今回新たに実装された店舗試着サービス「TRY & PICK」について教えてください。

小川大輔氏(以下、小川):当社は品質にこだわりをもったモノづくりをしているため、単価が高い商品を多く展開しております。オンラインの特性上、その商品の良さをなかなか伝えきれないというのがEC側での課題の一つでした。その課題を解消するために、オンラインで見て興味を持った商品を実店舗に取りよせ、実際に商品を試着した上で、納得して買っていただく仕組みとして「TRY & PICK」を始めたのです。「TRY & PICK」を体験したお客様からは早速、ご好評のお声が届いています。

斉藤:もちろん、導入するにあたり一定のコストはかかりますが、あくまでもお客様に提供できる価値、CX向上という観点が重要なので、私たちはOMO施策=売上という単純な図式では考えていません。その波及効果についてはこれから見ていくところだと考えていますが、「TRY&PICK」は入り口としてはECでありながら、最終的には実店舗の売上になるため、店舗側も特に否定的な意見はなく、スムーズに導入できました。

TRY&PICK_1208.jpg

各ブランドの世界観を毀損しないよう、ビジュアルの見せ方を熟考

――他に、今回追加した機能、変更したポイントはありますか。

小川:機能面では、ID決済、キャリア決済を中心に決済手段を増やしました。前々からニーズは感じていたため、もう少し数字を見た上で、さらに追加していきたいと思っています。
店舗からの取り寄せ購入の仕組みも、CXを意識して改変しました。以前は、お取り寄せ商品と通常発送商品と別々でご注文頂く必要がございましたが、同時注文が可能になりました。倉庫のオペレーションなど裏側の仕組みを見直したことで、お客様のニーズに応える結果となり、リニューアル後は取り寄せ購入の件数は伸びています。
他に、ビジュアル面の工夫も注力しました。今回各ブランドサイトを集約する上で、ブランドごとの表現をどうするかというのは非常に難しい部分でした。それぞれのブランドで訴求したいことがあるので、サイトとしての表現についてはずいぶん考えましたね。例えばブランドの世界観をダイレクトに感じていただくためにブランドトップページのファーストビューにシーズンビジュアルを配置しました。
さらに、「特集/FEATURE」というページを設けて、各ブランドで商品の魅力を伝えるコンテンツを掲載しています。ここは決められたテンプレートというよりも、少し柔軟に作成できるようになっているので、今後はよりブランドらしい豊かな表現が出てくると思います。

――サイトを統合することに対して、各ブランドからの懸念や抵抗などはなかったのでしょうか?

斉藤:当然、ブランドごとでの戦略と、モールとしての戦略では、一見相反する部分もあるので、そこへの抵抗感は若干ありました。ただ、私たちは無理やりブランドサイトを吸収するのではなく、モール内でもブランド戦略に合わせたイメージやコンテンツを最大限訴求できるように、常にブランド側に立った視点でECサイトの構築を進めました。
また、「SANYO ONLINE STORE」は、個々のブランドECサイトよりも、圧倒的に機能やサービスが充実しているので、お客様にとってみれば大きなメリットがあると考えています。それらのメリットや方向性をブランド側には丁寧に説明しました。
今回のサイトリニューアルに合わせてサイトの運営体制もウェブビジネス部に一本化し、サイトの運営コストや人的リソースの効率化も図れたので、その点はブランド側も理解していただいたと考えています。

各施策によりEC↔実店舗のクロスユースが実現し、売上にも貢献

_DSC3908.jpg

――「SANYO ONLINE STORE」オープンから数か月経過した現在、数値的な成果、社内外の反響や手ごたえなどはいかがでしょうか。

斉藤:まだリニューアル後間もないということもあり、実データとして出ているものは少ないのですが、現在まで、サイト来訪数もECでの購入も、前年同時期やリニューアル前と比べて非常に伸びている状況です。例えばECからの店舗取り置きサービスは以前から実装していたのですが、店舗試着サービス「TRY & PICK」をスタートし、EC上でしっかり訴求したことで利用率が大幅に伸びています。
一般的にこういったリニューアルやリプレイスでは、サイトの見た目や導線が変わり、ユーザーが迷子になってしまい、一時的にサイト来訪数が停滞することがあるのですが、「SANYO ONLINE STORE」ではむしろ増えている。これは既存のお客様にはリニューアル前から継続的にアナウンスするとともに、新しいお客様へのアプローチには広告も含めてしっかり戦略を持って実施したことが大きな要因と考えています。
そして、サイトに来られたお客様がストレスなくお買い物ができるよう、旧サイトのデザインをある程度踏襲しながらも、サイト内での新たなサービスの紹介を訴求したことなどが、成果に結びついたと言えます。
サイトリニューアルの狙いであったプロパーでの売上も前年より大きく伸びており、売上全体のプロパー構成比も当初の想定以上に上がっているという意味では、ある程度目的は達成できたのかなと思います。
社内に関しては、トップの画面と各ブランドページのビジュアルを工夫したことでサイトの見え方が大きく変わったことや、プロパーの売上がしっかり伸びていることについて、一定の評価をもらっています。
また、同じ業界の方々からも、非常に高評価をいただいている感覚はあります。大きなトラブルなくリニューアルができたという部分と、ブランドサイトを統合した上できっちりと世界観を表現したことが大きかったと思います。

――現在、サイト運用において気をつけていること、注力していることを教えてください。

斉藤:ECサイトが1つになったとはいえ、ブランド毎に担当者がついて、ブランドページの運営を行っているため、全体最適とブランド個別最適という縦軸と横軸のバランスには注意を払っています。オープンして間もない段階なので、日々起きるシステム的な事象や不具合などはある程度仕方ないと考えていますが、お客様にご迷惑をかけることのないよう最大限配慮しています。今後も常にお客様の声に耳を傾けて、新たな機能開発やサービス改善に取り組んできたいと考えています。

小川:新たな機能において、実装したいことのシステム的な裏付けをしたりとか、細かいテストを実施したり、地道にブラッシュアップしているところです。

(※取材は2023年11月)

インタビュイー紹介

_DSC3914.jpg

株式会社三陽商会

マーケティング&デジタル戦略本部
ウェブビジネス部長
斉藤裕介さん

_DSC3930.jpg

株式会社三陽商会

マーケティング&デジタル戦略本部
ウェブビジネス部 CX推進課長
小川大輔さん