ECと実店舗のクロスユース率を高め、CX実現へ。
三陽商会が仕掛けるオンラインストアリニューアルのその意図とOMO戦略【後編】

2023年9月、OMO推進とCX向上を目指して、これまでのブランドサイトとECサイトを統合した「SANYO ONLINE STORE」をオープンした株式会社三陽商会。前編では、「SANYO ONLINE STORE」立ち上げプロジェクトの背景やサイトローンチ後の反響について伺いました。後編では、全社的なマーケティング戦略、CX向上への取り組み、今後の展望などを同社ウェブビジネス部の斉藤氏、小川氏に語っていただきました。

三陽商会のマーケティング戦略

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アプリをリニューアルし、機能も拡充

――貴社は現在、どのようなマーケティング戦略を立てているのでしょうか。

斉藤裕介氏(以下、斉藤):基本的には、実店舗もECも会員システム「SANYO MEMBERSHIP」をベースに行っています。実店舗のマーケティングは各ブランドとマーケティング・コミュニケーション部が連携して行っており、私たちウェブビジネス部は主にEC上でのマーケティングを担う立場です。
スマホアプリも以前は会員機能をメインとした「SANYO MEMBERSHIP」アプリでしたが、サイト統合・リニューアルのタイミングで「SANYO公式アプリ」としてリニューアルし、ECへの導線を強化しました。

小川大輔氏(以下、小川):Web施策としては会員様向けのメール施策を中心に進めてきましたが、アプリリニューアルをしたこともあり、今はアプリを活用したマーケティングも広げていきたいと考えています。新規獲得としては実店舗での入会がメインで、WEB広告も実施しております。また、店頭では合わせてアプリダウンロード促進も実施いただいております。

アンケート、データ解析、ヒアリングなど、幅広く情報を集めニーズをつかむ

――2023年は秋になっても気温が高かったと思います。9月20日に「SANYO ONLINE STORE」オープンのタイミングで想定した形とは異なる部分もあったのではないかと想像しますが、いかがでしたか。

斉藤:おっしゃる通りで、特に重衣料を中心とした秋物が動いていかないといけない10月は、完全に気温の影響を受けました。しかしこれは当社に限らず、各社様同じだと思います。
ただ、ECでは販売できる商品が無限大であることが大きな利点で、秋物だけでなく、春物、夏物、冬物、あるいは昨年発売の商品など、全てをラインナップとして揃えることができます。そのため、「今の気温で欲しいものが店頭にはない」というときにECを活用していただいて、気候に合わせたジャストな商品を購入していただけたと思います。

――OMO施策やEC運営を考える上で、日々ウォッチしている媒体はありますか。

小川: ECサイトやブランドサイトは幅広く見て、見せ方、打ち出し方、新機能などの特徴をつかむようにしています。

斉藤:ニーズのつかみ方はいろいろありますよね。NPS(Net Promoter Score)のようなアンケートや、社内の人間や友人・知人のヒアリングを通して"今お客様が何を求めているのか?"といった部分は常に意識しています。一方で、小川のチームで行っているWeb上のデータ解析で出てくる数値も非常に重要です。それらを総合的に判断して、最適なアクションを考えるようにしています。

CX向上へ、お客様視点で考える

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お客様に適切に情報を届けることで買い回りも見込める「メディアコマース」

――「SANYO ONLINE STORE」では、メディアコマース化することで、ブランディング強化と買い回りを促進するCX向上をめざすと公表されています。メディアコマースに対する貴社のお考えについて教えてください。

斉藤:ひと昔前であれば、ECサイトは完全に購買のためだけのものとして存在していました。しかし今は、コンテンツや情報を載せて、お客様に商品やブランドの良さやこだわりを知ってもらう「メディア」としての機能を搭載しているECサイトが主流になってきています。
当社では、メディアコマースを意識したサイトを作るというよりは、時代やお客様のニーズに合わせて適切に魅力を伝えることを考えていった結果として、「メディアコマース」と言われるものに落ち着いたという認識です。
各ブランドのサイトを統合したことにより、各ブランドに関する情報は自社モール時代よりも必然的に強化され、かつ他ブランドのファンの方の目にも触れる機会が増やせています。その意味で、ブランディング強化と買い回り促進につながる導線づくりはできたと思っています。

――他に、CX向上に関して取り組まれていることはありますか。

小川:具体的な施策はここからさらに進めていく必要があると思っているのですが、買い回り促進のところで言えば、相性がいいブランド同士を掛け合わせた訴求について、ブランディングとして、本当にその施策を実施するのがいいのか、いろいろな角度から考えていかないといけないとも感じています。
事業者都合やブランド都合になっていないか、常に意識するので、少し足踏みするときもありますが、お客様視点という軸は常に持って進めているところです。

斉藤:当社のブランドは比較的、年代も価格帯も近いブランドが並んでいるので、1つのアイテムを探そうとしたときに、いつも買われているブランド以外の商品も目に入れば、新たなブランドの商品を購入する一つのきっかけになると考えています。モールとして複数のブランド、商品を展開する事で多くのブランドを買い回っていただけるようにしていきたいと思います。

大手モールへの出店はブランドにとってもプラス要素

――Amazonや楽天市場のような、外部モールへの出店についてはどのようにお考えでしょうか。

斉藤:2015年頃から本格的に出店を始めて、今は国内のほとんどの大手モールに出店しています。業界では、大手モールに出店することに対してブランドイメージの観点で懸念をお持ちの企業・ブランド様もいらっしゃると思います。私たちも出店し始めた頃は、社内から「何でSANYOのブランドを外部ECモールに出すんだ」という声があったのは事実です。
しかし、私たちはブランドとして出店するというよりも、どちらかと言えばそのブランドや商品をより多くのお客様に見せていく意識で展開しており、結果として、そこから新たに自社ブランドのファンになっていただく機会になると考えています。
大手モール様はやはり圧倒的な集客力があるので、単に売上拡大だけの目的だけではなく、ブランドの認知拡大とともに、タッチポイントを増やすという意味でも確実に必要な販路と考えています。社内で懸念を持たれている方には、そういったことを丁寧に説明していったことで、理解してもらえたと思っています。
もちろん、将来的には他社モールで見たお客様や買われたお客様がきちんと自社モールに来ていただき、自社の他ブランドを含めて買い回っていただけることが理想ですね。

クロスユース率を高めるためのOMO戦略

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EC化率を上げることは目的としない

――今後の施策や機能追加など、展望についてお話しください。

斉藤:今回のサイトリニューアルはゴールではありません。それは当然、社内で強く認識していて、ローンチのタイミングでは実装できなかった機能やサービスを今後追加していきたいと考えています。EC業界としても、まだまだ新たなサービスが出てくると思うので、潮流やニーズを見ながらアップデートは続けていく所存です。
マーケティング戦略としても、リニューアルのコンセプトであるOMOの実現はまだまだやるべきことが多くあると考えています。機能としてはすでにある程度実装できている部分もあるので、今後は次のフェーズとして、今ある機能・サービスをどう活用するか小川のチームを中心にCXやCRM施策を強化していきたいと思います。
大きなテーマとしては、ECと実店舗のクロスユース率をいかに高めていくかとなります。
すでにデータとして、ECを利用されるお客様の実店舗への来店率は高い一方で、実店舗に来られるお客様はECの利用率が低いということはわかっています。実店舗に来られるお客様にもECを使っていただくためのアプローチや機能を、今検討・設計しているところです。

小川:今のOMO機能でできる範囲のことをしっかりやることが先決ではあります。今サイトに来訪いただいているユーザーをより細かく分析し、ユーザー個々に対するアプローチを今、改善・強化しています。そのベースを整えながら機能やサービスをさらに拡充していく方向で考えています。

――実店舗中心の売上比率をECに持っていきたいという意向なのでしょうか。

斉藤:単純にEC化率を上げようという意識はありません。ECだけで売上を上げていくのではなく、あくまでも店舗と連動してお客様の利便性を高めることで、結果としてクロスユース率を上げていきたいという考えです。お客様がどちらのチャネルでもストレスなく買える環境を整えることで、実店舗もECも両軸で成長していくビジョンを描いています。そのために、私たちはECでしかできない部分やECの強みを生かせる部分に注力して、逆にECではできない部分を店舗で補完していただく、その連動を強化しているところです。

流行りの手法に飛びつかず、お客様のニーズに着実に応える

――最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。

斉藤:個人的には、マーケティングといってもその定義、範囲は広く、あまりその言葉に縛られないように意識しています。ただ、きちんとお客様を見ることが重要で、そのお客様に最適なコミュニケーションを取る事でお客様の満足度が上がり、最終的にはブランドや会社のファンになってもらう。その部分を徹底的に考えていった先に、マーケティング戦略があるのだろうとは感じています。
当社ブランドのほとんどは、アッパーミドル層をターゲットに、高品質・高価格帯商品をベースに展開しています。そういったブランドが集積している会社はなかなかないため、「他社に倣え」で施策をしてしまうと、ニーズとはかけ離れた施策になる可能性が非常に高いのです。
そのため、流行りのマーケティング施策を調べて「この施策をしよう」ではなく、時代によって変化するお客様のニーズに対応していくことを何より大事にしています。そういった独自の部分も冷静に見極めながら、自社のマーケティングを考えていくといいのではないかと思います。

(※取材は2023年11月)

インタビュイー紹介

_DSC3914.jpg株式会社三陽商会

マーケティング&デジタル戦略本部
ウェブビジネス部長
斉藤裕介さん

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マーケティング&デジタル戦略本部
ウェブビジネス部 CX推進課長
小川大輔さん