「しあわせの総量を最大化する」を実現する物流×AI
フェリシモ流・事業づくりと顧客体験【後編】

オムニチャネルやデジタルマーケティングの文脈では、華やかな「フロントエンド」の施策が注目されがちです。しかし、どれほど高度な技術で受注を最大化しても、お客さまの手元に届ける「物流」という裏側の基盤がなければ、ビジネスは一歩も前に進みません。

独自の「定期便」モデルで多くのファンを魅了し続ける株式会社フェリシモ・新事業開発本部 副本部長の市橋邦弘氏とスマイルエックス合同会社CEOの大西理氏の対談。前編では、事業や顧客体験設計の思想や哲学を伺いました。

後編では、フェリシモの物流やAI活用、商品企画などの戦略を深掘り。セイノーHDとの共創によるLCC宅配ジョイントベンチャーカンパニー「LOCCO(ロッコ)」の挑戦から「人間らしい遊び心」の重要性までを紐解きます。

前編「積み重ねた"フェリシモらしさ"と"ご縁"が事業を動かす フェリシモ流・事業づくりと顧客体験」はこちら

「第4の運送会社」を創る。物流クライシスを「共創」で突破

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物流は"最後の接点"。進化する現場となお残る改善余地

大西:フェリシモの物流戦略についてもぜひお伺いしたいですね。私が大学で担当しているEコマースの授業では、物流の回になるとつまらなさそうにする学生がいます。「地味で大変そう」というイメージが先行し、興味を持てずにいるのかもしれません。

市橋:若い方にもEC物流に興味がある方はぜひ、弊社の配送センターを見ていただきたいですね。頭上を「スカイポーターシステム」という搬送機のバッグが飛び交い、ピッキングされた商品を自動で次の作業現場まで搬送しています。なるべく人が移動しなくて済むように、商品が入ったカラフルなバッグの搬送を機械が担う様子は、まるでおもちゃの工場のようで、見ているだけでも面白いと思いますよ。
物流には3Kのイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、社会のインフラであり、EC/D2Cビジネスに欠かせない機能です。どんなに素晴らしい商品企画をして、どんなに良いカタログやウェブサイトをつくっても、お客さまの手元に商品が届かなければ、売上は1円にもなりません。

大西:ECにおいては、集客施策やキャンペーン企画などの施策に注目が集まりがちですが、最後にお客さまとリアルな接点を持つのは物流ですからね。

市橋:そうなのです。とはいえ、物流は今でもフィジカルな領域が大きく、「壮大なバケツリレー」で動いている所が多いのも事実です。だからこそ、DXの余地はきわめて大きく、柔軟な発想ができる人が活躍できる場ではないかと思います。

日常の発想を仕組みに変えた、LCC宅配ジョイントベンチャー『LOCCO』の物流価値

市橋:物流クライシスが叫ばれ始めた頃、グループインタビューしたあるお客さまから「近所の家の分なら、私がついでに届けてあげるよ」という言葉をいただいたことがありました。これは、フェリシモの創業の原点である「職域通販」(一人が同僚の分をまとめて注文して受け取り、それを社内で配るモデル)と同じ発想。そこで、地域のラストワンマイル物流で同じことができないかと思いつきました。
そこで、元々フェリシモの100%子会社であった株式会社LOCCO(ロッコ)にセイノーホールディングス株式会社(以下「セイノーHD」)さんにも参画いただきジョイントベンチャーカンパニーとしてLCC宅配サービスを開始ししました。セイノーHDさんのもつ幹線配送網を活用しつつ、ラストワンマイルは地域のギグワーカーがアプリで最短ルートを見ながら置き配で届けるLCC宅配を『OCCO(オッコ)』というサービス名で提供しています。
物流には波動と呼ばれる時期的なニーズの波があり、配達員の方々が年間を通して毎日安定稼働するのが難しいという実情があります。そうした構造的な課題に対しても、一定の解決策を提示できている手応えを感じました。置き配専門にすることで再配達の必要がなくなり、配送コストは約10%の削減を達成しています。

大西:「置き配は盗難が怖い」から「非対面で安心」へと、コロナ禍が価値観を逆転させましたね。「配達は手渡し」という前提を覆した先に、新しい判断基準が生まれたのだと感じます。物流の改善には、まだまだチャレンジする価値がありますね。

AI活用も、顧客基点の発想で

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AI推進は若手中心に。事業の根幹部分はしっかり守る

大西:AI活用についてもお聞きしたいところです。社内ではどのように取り組まれていますか。

市橋:今期、AIを社内に浸透させるための専門部署が新設されました。部署は若手中心で構成しています。自分の部署でも「仕事は年配者が若手に教える」という前提を捨て、AI推進を若手に任せることにしました。

大西:NRF(全米小売業協会)でも「AIは人を置き換えるものではなく、人の力を増幅する"アイアンマンスーツ"のようなものだ」という表現が出ていました。人間を不要にするのではなく、人間を強化・拡張するためのスーツだけれど、中に人が入って操縦しなければ動かないものだと。市橋さんは、AIと人間の境界線をどこに引いていますか?

市橋:単純作業やデータの整理などは、AIに任せて、人間がやらなくてもよい定型的な業務はどんどんロボットやシステムに置き換えられたらと思っています。一方、合理性では答えが出ないところ、人間が考えるべき情緒的な領域は今後も残っていくと思います。

テックタッチとヒューマンタッチの「幸せな融合」

大西:ローコンテクストな場面にはデジタルを、ハイコンテクストな場面には人を。ここを取り違えると、体験価値は一気に損なわれますよね。

市橋:おっしゃる通りです。AI活用においても「お客さまがどう感じるか」を起点に考えないと、すべてが裏目に出ます。
一方で、AIに可能性を感じたのが「SNSの多言語対応」です。各国の方がAIによる自動翻訳を利用して国境や国籍や文化を超えて会話しているのを見ると、言葉の壁を超えるコストが劇的に下がったと感じます。海外の方に日本やフェリシモの魅力をリアルタイムで伝えるチャンスだと捉えています。

大西:将来的には、AIが最適化したルートをロボットが走り、フェリシモの可愛い箱を持って届ける日も来るかもしれない。そこをどう楽しく演出するかが、人間の仕事ですね。

市橋:最近大きな反響をいただいたのが、4月から弊社で運営している2025大阪・関西万博のオフィシャルオンランストアで、公式キャラクター「ミャクミャク」をデザインした配送用の段ボール箱でお届け開始したときの話です。合理性やコスト効率だけを考えれば、標準的な茶色の段ボールで十分でしょう。でも、ミャクミャク段ボールを送ると、届いた瞬間に「可愛い!」「捨てるのがもったいない!」と喜んでくださるお客さまがたくさんいました。中には「間違えて注文したけれど、この箱も欲しいのでキャンセルしません」というお声までいただいています。

大西:届く体験そのものが、強力なコミュニケーションになっているわけですね。一見採算度外視にも見えるほどの「ゆとり」を感じます。

市橋:お客さまの心を動かすのは、効率化とはまったく別軸の、「感動」や「驚き」だと思っています。コスト意識はもちろん大事ですが、それ以上に想いが重要だと思っています。そこから生まれる心に響く体験価値こそが、デジタル時代においても私たちの生命線だと思っているのです。

「事業性・独創性・社会性」の三つの輪で、理念を事業に落とし込む

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「しあわせの総量を最大化する」を具体的な指針へ

大西:人間だからこそ届けられるものを大切にしているのですね。フェリシモが掲げるビジョン「ともにしあわせになるしあわせ」との親和性も感じます。

市橋:私たちが事業領域としているのは「事業性・独創性・社会性」の三つの輪が重なりあうところです。かいつまんで説明すると、利益が出るか(事業性)、フェリシモらしいか(独創性)、社会に貢献できるか(社会性)。この三つが重なる事業に情熱を燃やして取り組んでいくことこそが、しあわせの総量を最大化できると思っています。

大西:三つの輪が重なった、具体的な事例はありますか。

市橋: 2010年に社内の猫好きが集まり、「フェリシモ猫部」を立ち上げました。「猫と人とがともにしあわせに暮らせる社会を」というビジョン(独創性)から始まり、殺処分問題を解決したいという思い(社会性)を、「オリジナル猫グッズの販売」という形(事業性)で成り立たせるものです。販売価格の一部が基金として動物愛護団体に拠出されています。

大西:収益を上げることだけでも、社会への貢献だけでも成り立たない。事業性、独創性、社会性が重なるところがフェリシモの顧客価値になっている、象徴的な事例ですね。

変化を起こし、業界に新しい風を吹かせる秘訣とは

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自然体でできることを探し、点と点を線に

大西:市橋さんが、常に新しい発想で挑戦を続けてこられた秘訣は何でしょうか。

市橋:私は常に「自分より上手にできる人がいるなら、その人に任せたほうがいい」と思っています。
若手時代にウェブ担当としてチャレンジしてきたのも、「商品企画や媒体制作の領域で自分より上手にできる人がたくさんいる。だったら、社内の誰もまだやっていない場所を選ぼう。そうすれば自分でも活躍できるかもしれない」という直感からでした。

大西:「得意」が最大化されるポジションを、自ら選んでこられたのですね。

市橋:誰かが自然体で軽々と出せる成果に対して、自分が必死に頑張って肩に力を入れて張り合っても、それは長くは続きません。新規事業も全く同じで、自分たちが「頑張ればなんとか提供できる」状態のサービスを形にしてしまうと、組織も個人も無理をし続けることになり、いずれどこかに歪みが出て提供し続けられなくなります。
だからこそ、私は「自分が自然体のままで価値を感じてもらえる場所」を探し続けてきました。それが結果的に、独自のポジショニングを築くことにつながったのだと思います。

大西:これからの時代、新しい風を吹かせたいと願うビジネスパーソンにもヒントになるメッセージだと思います。

市橋:自分が自然体で活躍できる場所を探して、様々な仕事や業務に好奇心を持って携わってみること。その点と点がつながった先に、自分だけのフロンティアが拓けていくのではないでしょうか。

インタビュイー紹介

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株式会社フェリシモ

新事業開発本部 副本部長
市橋 邦弘さん

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スマイルエックス合同会社CEO

日本オムニチャネル協会フェロー
大西 理さん

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